五輪まであと半年

 衛星放送で見た記録映画「東京オリンピック」(1965年、市川崑(こん)監督)は躍動感にあふれ、見始めたら止まらない。「東洋の魔女」と呼ばれた日本女子バレーボールの決勝の場面では、手に汗握る▲観客動員数は1950万人と、空前の大ヒットになった。誰もが胸躍らせて見たに違いないが、全編が迫力ある競技の記録かと言うと、そうではない▲クレーンにつり下げられた鉄球がビルの壁を打ち砕く。そんな意外な場面から映画は始まる。古い建物を壊し、新しいスタジアムを造る。五輪とは、何かが終わり、何かが生まれる時代の節目なのだという、市川監督のメッセージにも思える▲次の東京五輪・パラリンピックはどうだろう。「人類が新型コロナに打ち勝った証しとして」開くのだと、日本の前の首相も今の首相も言う▲「コロナ後」への転換点にしたいらしいが、最近の世論調査では今夏の開催を「中止すべき」「再延期すべき」という見直し論が8割を占めた。「待った」の声が音量を増す中で、祭典は半年後に迫る▲「コロナに打ち勝った証し」。今の感染状況を見れば、そんな威勢のいい大義を掲げている場合ではない-と世論は戒めているようでもある。何よりも感染の「封じ込め」に徹するべきいま、勇ましいばかりのメッセージはどうも響かない。(徹)

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