WOMEN IN POLITICS 第3回 カマラ・ハリス アメリカ初の女性副大統領、ガラスの天井にひび

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本連載「WOMEN IN POLITICS 〜世界で活躍する女性政治家たち〜」では、政治を舞台に活躍する女性を紹介しています。世界全体でも3割に満たないと言われる女性の政治家。まだまだ十分に男女平等が達成されない世界の中でも、「女性」という枠にとらわれず、社会を引っ張っていく政治家たちの知られざる素顔に迫ります。一主権者として、自らの代弁者となる政治家をどのように選んでゆくべきなのか。政治に関わる一人ひとりの人間の思いを知り、政治について、政治参画について、考えるきっかけを提供していきます。

3回目の今回は、1月20日に就任式を迎えるアメリカ合衆国次期副大統領のカマラ・ハリス氏。女性かつ、白人以外のルーツをもつ政治家として2020年の大統領選挙で初めて副大統領に選ばれ、世界的にも注目を浴びています。長い間女性候補がトップリーダーになれなかったアメリカで、ついに副大統領に選ばれた彼女は、どのようにして「ガラスの天井」にひびを入れることができたのでしょうか。

政治に対する意識を与えてくれた、唯一無二の母の存在

カマラ・ハリス氏は1964年、カリフォルニア州オークランドに生まれました。父はジャマイカ出身の経済学者、母はインド出身でがんの研究者でした。両親はともにカリフォルニア大学バークレー校で学び、公民権運動に参加していました。2人はそこで出会い、結婚します。そして母シャマラは博士号を取った年にカマラを出産し、2年後には妹のマヤも誕生しました。ハリス氏の著書”The Truths We Hold(『私たちの真実』)”によると、研究者であったシャマラは出産の寸前まで研究活動を行っていたと言います。

シャマラはインドの両親に、幼い頃から政治的な関心をもつことに関して影響を受けていました。その影響から、彼女はよく娘たちを公民権運動のマーチに連れて行きました。その後両親は離婚し、母シャマラが一人で娘たちを育てることになります。それでも彼女は2人の娘たちを黒人女性として自信を持った、誇り高い人間に育てることを決めていました。

ハリス氏も、自分たちがインドに深いルーツがあることを強く意識していた一方で、「母は私たちをあくまでも黒人女性としてアメリカで育てることを理解していた。」と語っています。

「今までの全ての成功は、母なしでは成し遂げられなかった。」

ハリス氏は著書の中で、自身の母についてこう言及しています。2011年にカリフォルニア州の司法長官に選出された際、勝利のスピーチの中に母の名前を入れることに彼女は強いこだわりを持っていました。それは、まだ海外旅行が盛んでなかった時代に強い信念を持って単身でアメリカに渡り、家族をつくり、研究活動と子育てを両立しながら自らの生きる環境を形成していった母への敬意を彼女なりに表したかったからかもしれません。この瞬間、ともに勝利を味わいたかった母シャマラは、2009年にすでに他界していました。

“FOR THE PEOPLE” すべての人々のために

「将来は公職に就く」と決めたハリス氏は、名門ハワード大学を卒業後、カリフォルニア大学へーステイング・ロースクールで弁護士資格を取得し、検事としてのキャリアをスタートさせます。さまざまな刑事事件を担当しながら刑事司法改革にも積極的に取り組み、2003年にはカリフォルニア州の地方検事に、そして2011年に州の司法長官になりました。

彼女は著書の中で自身の職業観にも触れています。

「私の見立てでは、プロフェッショナリズムとは部分的にオフィスの中で発揮されるものだと思うが、同時にそれをどうオフィスの外で生かせるかということでもあると思います。研修中の後輩たちにはいつも『あなたたちは人々を代表している。その人々が誰なのかよく理解することが大切だ。』と伝えます。縁のない土地で働く時は積極的に外に出て、地域の人々と交流する機会をもつことを推奨しているのです。『人々のために』とは『1人残らず全ての人のために働く』ということです。」

政治家になる前から「人々のために働く」ことを常に意識し続けていたことがよくわかる考え方です。実際彼女は自身のFacebookでも「私の人生における唯一のクライアントは人々です」と発言しています。一見普通の人にとっては遠い存在になりがちな検事という仕事だからこそ、人々のために働くためには意識的に地域に入っていく必要があることを自覚していたことが伺えます。

アイデンティティとキャリアの間に立たされながらも、意思を貫く

強い信念をもち、キャリアを積み上げてきたハリス氏。しかし、検事としての実績には一部の民主党支持者から疑問の声も上がっています。カリフォルニア州司法長官時代の2004年に白人の警察官が黒人の若者に殺された事件で、実際には死刑判決に値する刑でしたが、ハリス氏が死刑に反対したことは驚きをもって報じられました。また、統計的に犯罪率が高い黒人の若者について、「一部の人々は黒人である私が、いかに機械的に黒人の若者を刑務所に入れられるか疑問を抱いているだろう」と述べ、司法制度の複雑さにも言及しました。

そんな批判の中でも、自身を「進歩的な検事」と呼び、司法制度の中に残る構造的な差別を変えていくと選挙中にもアピールしていました。黒人男性のジョージ・フロイドさんが警察官からの暴行によって死亡した事件で広まったBLM(Black Lives Matter)運動もあり、人種差別問題は2020年の大統領選挙で大きな争点となりました。

「私たちが直面している現実は、何世代にも渡って行われてきたことで、アメリカの司法制度が発足された時からあったことです。アメリカには、2つの正義が存在してしまっています。そして、その制度の中で優遇されている人たちが構造的な人種差別の存在について議論を始めるとは思えません。」

法の中で闘った検事としてのキャリアと、自身も黒人として差別を経験してきた身でありその解消を期待される政治家として、これからも難しい立場に立たされることはあるかもしれません。

「私が最後ではない」可能性の国に響く、力強いメッセージ

”But while I may be the first woman in this office, I will not be the last.”(「私は大統領府で働く最初の女性かもしれないが、最後ではない。」)

11月の選挙後、投開票が行われ、勝利がほぼ確実と見られた頃の演説で彼女は人々を前にこう言いました。「なぜなら、今晩この演説を見ている全ての小さな女の子たちが、この国が可能性の国であることを知るからです。」ガラスの天井は未だ厚く、完全になくなるまでにはまだ時間がかかります。しかし、時代を超えた強い願いは今後も受け継いでいける希望があるものだと、広く示したことには大きな意味があるのではないでしょうか。

ハリス氏は演説の後日、TIME紙のインタビューでこう語っています。

母から言われた、「カマラ、あなたはたくさんのことにおいて先駆者となるでしょう、でもそれをあなたで終わらせてはいけないよ。」これが、勝利演説であのフレーズを入れた理由です。**

「女性だから」「黒人系やアジア系にルーツを持っているから」という理由から、民主党の多様性の証として彼女が選ばれたと見る人がいてもおかしくありません。しかし、彼女が勝利演説冒頭で引用した、元米国議会下院議員ジョン・ルイスの「民主主義とは状態ではなく、行動である」という言葉に表わされるように、より良い未来を求めて不断に行動し続けてきた人々の一票が彼女を初の女性副大統領に押し上げたのならば、彼女が副大統領になることそのものが、一つの「可能性」を感じられる変化であると思いませんか。

NO YOUTH NO JAPANでは、これからも様々な入り口から政治と若者をつなげていく活動をしていきます。

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参考
Kamala Harris, 2019, The Truths We Hold. Penguin Press; Illustrated edition.

TIME, Kamala Harris on Joe Biden, Being a ‘First’ and Restoring the Soul of the Nation: The 2020 TIME Person of the Year Interview.
https://time.com/5919490/kamala-harris-person-of-the-year-interview/

BBC News Japan「【米大統領選2020】 カマラ・ハリス上院議員とは 野党・民主党の副大統領候補に」(2021年1月17日閲覧)
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-53747058

San Francisco Chronicle, D.A. won’t pursue death in cop slaying, 2004-04-14, https://www.sfgate.com/crime/article/SAN-FRANCISCO-D-A-won-t-pursue-death-in-cop-2767716.php

東洋経済ONLINE, 「米国初の女性副大統領候補ハリス氏とは何者か」, 2020-08-13, https://toyokeizai.net/articles/-/368814

POLITICO, Harris; ‘We do have 2 systems of justice in America’, 2020-09-06, https://www.politico.com/news/2020/09/06/kamala-harris-police-justice-law-order-409387

(文=宮坂奈津、田中舞子)

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