<社説>核兵器禁止条約発効 核抑止力の呪縛抜け出せ

 史上初めて核兵器を全面的に禁止する核兵器禁止条約が、22日に発効する。核兵器の違法性が国際法によって規定され、「核なき世界」に向けた一歩を踏み出す。 米ロ中英仏の核保有国が参加を拒否していることなど、実効性の課題はある。しかし、条約の発効により核廃絶が実現可能な目標だという認識が世界的に広がり、不参加国への批判が内外で高まることは間違いない。唯一の被爆国である日本こそが直ちに参加を決定し、核廃絶の実現を主導する必要がある。

 条約は、前文に「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と明記している。広島、長崎への原爆投下から75年余り、原爆投下のむごさや非人道性を訴えてきた被爆体験者の活動が国際世論を動かし、条約の発効に至った意義を改めて確認したい。

 ところが、肝心の日本政府は米国の「核の傘」に配慮し、禁止条約に背を向けている。菅義偉首相は7日の記者会見で「条約に署名する考えはない」と断言した。

 日本が国連に毎年提出している核兵器廃絶決議でも禁止条約に触れないばかりか、核使用による壊滅的な人道上の結末に対する「深い懸念」の表明を、「認識する」の表現に弱めてまでいる。

 世界最大の核保有国である米国は、ロシアとの中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱し、2月には新戦略兵器削減条約(新START)の期限切れが迫っている。米ロ間の条約に縛られず核弾頭数を増やす中国への警戒感をあらわにし、際限ない軍拡競争が現実味を帯びている。

 五大国にだけ核保有を認めることを前提とした核拡散防止条約(NPT)体制にくみせず、北朝鮮やインド、パキスタン、イスラエルなどが事実上の核保有国と見なされている状況もある。

 沖縄も核の脅威と無縁ではない。INF廃棄条約の失効に伴い、米国は核弾頭搭載できる中距離ミサイル開発を再開し、南西諸島が配備地になるとの見方が強まっている。

 2020年1月時点の世界の核弾頭数は推定計1万3400発に上る。核兵器はひとたび使われれば互いの破滅を招くため、実際には「使えない兵器」と言われる。その兵器が地球上に大量に拡散する現状は、偶発的に核戦争を招くリスクを増大させる。

 核兵器の保有によって安全保障の均衡が保たれるという「核抑止力」は幻想であり、人類の脅威でしかない。

 日本は、戦争放棄と戦力不保持を憲法に掲げる国だ。核抑止の呪縛から抜け出し、禁止条約参加を世界に訴えていくことが使命だ。軍備増強で周辺国に脅威を与える中国に対しても、外交を通じて軍縮を毅然(きぜん)と迫ることが軍拡のエスカレーションを止め、日本の安全保障につながる。

 核兵器禁止条約という新たな国際合意の下で、徹底した核廃絶へと踏み出す時だ。

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