今シーズン注目すべきはマシンだ 2人の若手ドライバーも忘れずに

WECにトヨタが投入する「GR010 HYBRID」(C)TOYOTA GAZOO Racing

 1月7日、新型コロナウイルスへの対策で菅総理大臣が東京、千葉、神奈川の1都三県に特別措置法の基づく緊急事態宣言を発出した。13日には栃木県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県が追加され、11都府県となった。文字通り、厳しい年初となった。だが、「課程はどうであっても行き着く先は同じ」という意味を持つ「牛も千里、馬も千里」ということわざのように、いつかは収束するのだと信じて日常生活を過ごしていきたい。

 モータースポーツに目を向けると、2021年は新たな力が続々と登場する明るい年となりそうだ。まず、F1。アルファタウリ・ホンダから角田裕毅がフル参戦することが決定した。角田は2000年5月11日生まれの20歳。フル参戦開幕時として日本人最年少のデビューだ。ちなみに、それまでのフル参戦開幕時最年少は08年の中嶋一貴で23歳だ。1987年に当時34歳の中嶋悟が日本人初のF1ドライバーとしてフル参戦した時代とは隔世の感がある。

 期待の星はもう1人いる。F1と並ぶ世界最高峰モータースポーツである世界ラリー選手権(WRC)にフル参戦する勝田貴元だ。祖父の輝男は75年にWRCへスポット参戦を果たし、父の範彦は全日本ラリー選手権で8度の王者に輝いた、ラリー界のサラブレッドである。昨シーズンの最終戦、スポット参戦したラリー・モンツァの最終SS(スペシャルステージ)で、貴元は日本人初となるトップタイムを記録。いよいよ万全の体勢で今年フル参戦を開始する。

 ドライバーとしてはこの2人が目新しい存在だが、今年はクルマにも注目したい。それが、フランス伝統の耐久レース「ルマン24時間」を組み込む世界スポーツカー選手権(WEC)だ。現在、「市販車ベース」で戦っているWECは今シーズンからLMH(ルマン・ハイパーカー)と呼ばれる新レギュレーションにマシンを導入する。ちなみに「市販車ベース」と認定されるには2年間で20台以上生産して市販車承認(ホモロゲーション)を得る必要がある。

 2018年6月、ルマン24時間の主催者は高額だが高性能な「ハイパーカー」が参加するレース構想を発表した。ルマン24時間はもともと市販車をベースにしたマシンが主流だったが、時代の流れとともにLMHのようにレース専用に開発された「プロトタイプ」が最高峰クラスを争うようになった。だから、この構想はいわばルマン24時間の先祖返りを目指したといえる。ただ、現在の市販車におけるさまざまな衝突安全基準に適合させるとレースカーには不向きな部分も多い。結果、「市販車ベース」と、「プロトタイプ」の両方が出場できる仕組みとなった。

 実は、この構想に最初から参加の意思を示していたのが日本のトヨタだ。トヨタは「GRスーパースポーツ・コンセプト」というコンセプトカーを18年1月に発表するなど、ハイパーカー製造を先だって示唆していた。ただ、レギュレーションでレース専用のプロトタイプマシンが参加可能になったため、市販車ベースではなく、レース専用マシンを新たに開発した。それが今季「GR010 HYBRID」としてデビューする。日の丸を感じさせるカラーリングは日本メーカーであるトヨタの意思が感じられるものだ。

 参戦の間口を広げたことで、トヨタに続き、フランスのプジョーも参戦を発表。さらに同じ耐久レースとして相互出場も可能となる、アメリカが主体のIMSAにはポルシェが参戦することを明らかにした。さらに、アウディも参戦の意思を表明するなど、ハイパーカーには多くの自動車メーカーが強い興味を示している。そのスタートとなるのがLMHとして新しくなった今年のWECなのだ。

 しかも話はここで終わらない。市販車ベースのLMH参加は見送ったトヨタが、同じ「技術遺伝子」を持つ2人乗りハイパーカーを今年発表・発売するとうわさされているのだ。「GRスーパースポーツ(仮称)」だ。昨年のルマン24時間レース前にデモ走行も披露しており、実現すればルマン24時間マシンの遺伝子を受け継ぐ日本車が登場することとなる。

 モータースポーツ界の初夢とも言える話題の実現や、日本人ドライバーの活躍で、収束の気配が一切見えてこない新型コロナウイルスで暗くなりがちな社会や人々の心を明るくしてもらいたいものだ。(モータースポーツジャーナリスト・田口浩次)

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