「もうしないよね?」ー「もう捕まらない」ー 若者の大麻汚染  悪い意識ない

長崎大の調査では,学生にとって大麻が身近な薬物であるとの実態が浮き彫りになった(写真はイメージ)

 長崎県内で若者の大麻汚染が広がっている。2020年に大麻取締法違反事件で県警が摘発したのは28人。平成元(1989)年以降、最多となった。6割超は20代以下の若者だった。逮捕者が出た長崎大は学生の意識調査を実施。勧誘された割合は首都圏と変わらず、長崎でも大麻が「身近に存在する薬物」との実態が浮き彫りとなった。

 昨年6月、有償で乾燥大麻を譲り渡したとして、大麻取締法違反(譲渡)の疑いで長崎大の男子学生=当時(19)=が長崎署に逮捕された。大学のその後の調査で、学生は入学前に大麻を使用するようになり、進学後も続けていたことが分かった。
 逮捕から2カ月。学生と友人は事件後、初めて顔を合わせた。長崎市内の海辺。友人は学生に問い掛けた。
 「もうしないよね?」
 学生は答えた。
 「もう捕まらない」
 再犯を心配した友人は事件について水を向けても、「答える必要ある?」と学生は話したがらなかった。しかし、ほかの学生と話題に上った時、どこまで本音か分からない言葉が飛び出した。「あいつら(譲渡先)の頭が悪かった。新しい人に売らなきゃよかった」。こう続けた。「今はやっていない。連絡先も全部消された」
 学生は退学処分となった。「まさか退学になるなんて」。友人は、元学生の会員制交流サイト(SNS)で知った。重い処分に言葉を失った。
 学生は友人らに頼られる存在だった。物事を冷静に判断でき、聞き上手。優しくてイライラしている姿は思い出せない。皆に好かれていた。「逮捕された、という一面だけで片付けてほしくない」。友人はショックを隠せなかった。
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 長崎大では昨年1月にも、別の学生=退学処分=が九州厚生局麻薬取締部から大麻取締法違反の疑いで逮捕されていた。飲み会で他の学生3人と使用したことも分かった。
 逮捕者が相次いだ事態を受け、長崎大は全学生を対象に違法薬物に関する意識調査を実施。学生数の67.6%に当たる6119人が回答した。今月、その結果を公表した。
 薬物の使用や購入を誘われたり、勧められたりしたことがあると答えた学生は88人(1.5%)に上った。これは関西4大学(関西、関西学院、同志社、立命館)の調査とほぼ同じ比率。都市圏と変わらない状況が浮かび上がった。さらに、周囲に大麻を所持したり使用したりする人が「いる(いた)」との回答は149人(2.4%)だった。

 「地方の国立大学である長崎大の学生に限って、薬物汚染はないだろうとの慢心があった」。結果公表後、井上徹志副学長は取材にこう答えた。
 意識調査では、大麻などの薬物使用について「他人に迷惑をかけないのであれば、使うかどうかは個人の自由」との回答も6%あった。井上氏は「講義などで啓発しているつもりだった」と振り返り、倫理観や規範意識に関する講義を必修科目にするなどして再発防止に努めると説明した。
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 友人は意識調査の結果について、あまり驚く内容はないと言う。ただ、大学には「『駄目』を繰り返すのではなく、なぜ駄目なのか、大麻に手を出すと身体的、社会的にどのような結果になり得るかを強調してほしい」と話す。
 19歳で逮捕され退学となった元学生は今、再び進学を考えているという。友人は、大麻によってもう二度と、本人が傷つくことがないよう願っている。事件を振り返って、つぶやいた。「多くの若者は『ばれなきゃいい』と軽い気持ちで大麻に手を染める。悪いという意識もない。しかし、人生を棒に振ってまですることじゃない」


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