<書評>『日本「米軍基地」列島』 基地への視点、変える契機

 沖縄に住む人間の多くにとって米軍基地のフェンスや大空を飛び交う戦闘機はおなじみの景色だろう。私は中部育ちなので特にそう感じる。好むと好まざるとにかかわらず、私たちは基地の風景に長年親しんできた。だがフィルムを通して異化されるとき、基地はいつもと違う意外な容貌を見せることがある。
 本書は米軍基地が登場する映画を18本紹介し、劇中の基地表象に論評を加えている。著者が住む埼玉県入間市にかつて存在したジョンソン基地を映し出す『はだかっ子』から韓国の米軍基地を批判した『グエムル 漢江(ハンガン)の怪物』まで、議論の的となる作品の射程は広い。沖縄関連作としては、辺野古がロケ地の『友よ、静かに瞑(ねむ)れ』とマーロン・ブランド主演のハリウッド映画『八月十五夜の茶屋』ほか数本が取り上げられる。さらに円谷プロのテレビ作品『怪奇大作戦』を語る節では沖縄出身の脚本家上原正三が話題にのぼる。
 本書の下地となったのは2014年から15年にかけて本紙文化面に連載したエッセーだという。もともと連載形式だったせいか、全体を通して話があちこちに飛びがちだ。著者が出会った映画人の逸話や、自身や家族に関する個人的な追想は興味深く読めるが、作品を論じている最中も出演者の親族や映画賞などに関する豆知識へとしきりに脱線していく。『友よ、静かに瞑れ』の節では「時代背景をみても沖縄の辺野古は必然性がない」と断言するなり、映画批評を放り出して辺野古の新基地移設計画をめぐる熱論を繰り広げる。基地問題や日本政府に対する著者の政治的スタンスには首肯できる部分が少なくないものの、映画そのものをもっと掘り下げて斬新な解釈を引き出してほしいと無い物ねだりをせずにはいられない。
 それでも米軍基地映画という他に類を見ない分野に注目した本書の意義は大きい。身近な存在である基地について普段とは異なる視点で考えるきっかけを与えてくれるはずだ。
 (藤城孝輔・岡山理科大学教育推進機構教育講師)
 よしだ・ひろし 1963年、東京生まれ。映画プロデューサー、映画ライター。映画「天国までの百マイル」などにプロデューサーとして参加。共著に「フェンスに吹く風」など。
 

© 株式会社琉球新報社