多すぎる中国の「宿題」、親にプレッシャー

政府も対応に乗り出す【世界から】

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北京市内のカフェで子どもに宿題をさせる母親=斎藤淳子撮影

 子どもの宿題を手伝う。これはどこの国でもあることだろう。しかし、いつまで手伝うかについては国ごとに違う。奈良教育大の調査は、日本では小学4年以降、親の関与が少なくなるとする。一方、中国では小学生はもちろん、中学生の宿題も親が監督・補助することがごく普通になっている。親と子どもが文字通り、二人三脚で日々の宿題に向かい合っているのだ。

 近年、中国政府やメディアも注目し始めている中国の「宿題問題」について、北京からリポートする。(北京在住ジャーナリスト、共同通信特約=斎藤淳子)

 ▽「二人三脚」

 通常であれば、小中学生の宿題は本人が自分でするものだ。しかし、中国では親子が共同でやっている。人工知能(AI)を利用した小中学生向けの教育プラットフォームの「阿丹題(afanti)」が2017年12月に発表した「中国小中学校宿題圧力報告」の結果にそのことがよく表れている。

 この報告によると、中国では9割以上の小中学生の親が子どもの宿題に付き添ったことがあり、78%が毎日つきっきりで指導や添削などを行っている。また、子どもだけでは終わらないような宿題の場合、親が代行するケースも少なくないという。

 最大の原因は宿題の量が多すぎるからだろう。中国国内の小中学生が宿題に要する時間は一日平均で2・8時間と世界一長い。これは日本(0・76時間)の3・7倍に相当する。

 中国政府は2015年以降、宿題の「負担削減令」を複数回出している。その影響で15年の3・1時間からは減少した。しかし、世界各国と比較すると、依然多い。その背景には、小学低学年からテストで良い点数を獲得する能力の養成が重視されていることがある。そのために、子供たちはテスト形式の問題を繰り返し解く「問題演習」をこなし、一部は丸暗記することを余儀なくされる。日本であれば、進学塾などでやる内容を学校で消化するので、宿題が増えてしまうのだ。

 「中国小中学校宿題圧力報告」では、中国の教師が1週間におよそ54時間も働いていることも明らかになっている。長時間に及ぶ労働時間の約4割を「宿題の添削」に使っている。先生からすると、作業量が多すぎるので親に頼らざるを得ないという事情もある。

 強い向上心と心配性が〝同居〟している1970年代から80年代生まれの親ならではの高い教育熱も影響している。同報告によると、現在の親は「スタートラインで後れを取らせまい」とわが子が良い学校へ行くことを強く期待している。同時に「万が一、落後したら大変」と焦る傾向も大きいと指摘している。

 この傾向は子どもが一人しかいない親で顕著に見られる。「後にも先にもこの子だけ」と思い詰めやすいからだ。そんな親たちにとって子どもの宿題を監督・指導するのは当たり前と映っているようだ。

 生徒の点数獲得能力を上げようとする教師と親の教育熱が相まって、中国では親が子供の宿題を自分の仕事のごとく扱ってきた。

 このことの延長なのだろう。中国では毎日、小中学校の宿題リストが両親の携帯に送付される。子どもが提出する宿題の出来に問題があった場合、教師が親に注意する。親は自らの監督不行き届きを謝り、子どもには〝倍返し〟でお仕置きをすることになる。

 読者からすれば、不思議なことばかりですぐには理解できないだろう。しかし、中国では教師が絶対的な権威を持っている。加えて、家族を特に重視する「家族主義」が根強いことで子どもの人格があまり尊重されないという事情もある。これらが重なって、いびつとも言える現状を生んでいるのだ。

中国の小学校で授業を受ける生徒たち=2020年4月20日、中国海南省海口市(共同)

 ▽家庭内ストレスも

 毎日、子どもの宿題に付き添う親たちの疲弊はかなりの域に達しているようだ。中国のメディアには「宿題をしない時は『慈母と孝行者』。宿題が始まると犬や鶏が飛び交う大混乱」という表現がよく登場する。それほど、親による宿題の付き添いは中国の多くの家庭で「混乱」を招いている。

 「中国小中学校宿題圧力報告」でも、約76%の保護者が「宿題の付き添いで子どもとけんかになった」と回答するなど、宿題に付き添うことで親の心理的負担が増しているとする。同時に「ノロノロしてなかなか進まず、教えても全然理解しない子ども」を前に親はカッとなりやすいとも指摘する。

 友人との会話でも「宿題問題」はしばしば話題に上がる。「(小学生の)子どもの宿題の付き添いは本当に辛抱できない」「子どもを怒鳴らない家なんてないわよ。うちのマンションでも下の階から毎日のように母親に怒鳴られて泣き叫ぶ子どもの声が聞こえてくるわよ。この前なんて夜の11時に爆発していたわ」「今、夫が中学2年になる息子の宿題を見ているけど、また大声で怒っている」などなど、尽きることはない。

 ▽報われない…

 親が抱えるストレスの大きさがよく分かるニュースを二つ紹介する。

 片頭痛に悩まされ続けている湖北省武漢市の女性が病院を受診したところ、焦りといらだち、そして鬱(うつ)が原因だと判明した。女性は「子どもの宿題のために毎日多大な労力と時間を費やしているのに全く報われない」と嘆いていた。

 ちょっとした騒動になったこともある。2020年12月、上海市在住の男性が怒りから子どものノートを焼いただけでなく、自宅の窓から投げ捨てたのだ。男性はこの時、小学4年の息子の宿題に付き添っていた。

 ノートを燃やして捨てたことは論外だ。とはいえ、全国の親が心身をすり減らすだけでなく、健全な親子関係を犠牲にしながら宿題を補助しているのが分かる。

 中国青少年研究センター少年児童研究所の孫宏艶所長は「親は頭では怒鳴るだけの宿題指導は正しくなく、子どものプレッシャーを増やすだけと分かっている。だが、コントロールできない。一方、長期にわたって親に怒鳴られている子どもは自信喪失するだけでなく、勉強嫌いに陥りやすくなる」と話す。

 別の専門家は「家庭は子どもが安心できる場所であるべきだ。だから、保護者は教師役を演じるべきではない。子どもが家庭で得る心理的安心感は非常に大切なもの」と指摘する。

中国で全国一斉の大学入試を終え、母親から花束を渡された受験生=17年6月8日、北京(共同)

 孫所長は「(親が宿題指導で怒鳴ってしまう)根本の原因は競争と評価システムがつくり出している」と指摘する。中国社会には激しすぎる競争圧力が厳然と存在する。その中で自分の子どもにだけは生き残ってもらいたいと焦る親心が、宿題の際の怒鳴る声を生んでいるのかもしれない。「宿題問題」の根は深い。

 ▽「禁止令」

 中国政府も動き出している。2020年12月に開いた会見で中国教育省は過去5年の義務教育事業についての評価を発表した。その中で同省は「教師が保護者に対して宿題の完成や添削を要求する違反行為に対しては厳格に対処する」と表明して、「宿題問題」への関与を強める姿勢を示した。

 政府が「宿題問題」を言及するのはこれが初めてではない。19年6月に公表した「教育教学改革の深化と義務教育の質向上に関する意見」でも取り上げている。この中で政府は「学生の宿題が『親の宿題』化すること。または、親に宿題の添削などを求める行為を根絶する」などと記して、親が子どもの宿題を手伝うことを禁止した。

 15年以降に出た「負担削減令」の対象は主に学生だった。ここに来て、政府は親の負担削減を加えたことになる。政府も宿題で親子ともども疲弊した挙句に、親子関係が悪化し、子どもの心理的健康に悪影響が出ることを懸念し始めたのかも知れない。

 これに対し、中国の教育専門家は「軸にある点数至上主義の受験競争自体は変わらずあるため、根本的な解決には至らないだろう」と懐疑的だ。この専門家は「(現行のシステムの中で)なるべく、バランスを取るしかない」とも指摘している。

 教育は社会全体の価値観を映し出す鏡であり、変革は容易ではない。中国の「宿題問題」からは親の苦悩と教育改革の模索が見えてくる。