「武漢日記」作家が「取材はこれで最後…」

封鎖1年、やまぬバッシング

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 新型コロナウイルス対応で中国湖北省武漢市が封鎖されてから23日で1年となった。世界初のロックダウン生活を記録して国際的な反響を呼んだ地元作家の方方さんが書面インタビューに応じ、封鎖の暗部も包み隠さず描いた「武漢日記」を公開したことで、今も政府寄りの愛国主義者らからの攻撃を受けていると明らかにした。日記は中国内で事実上の発禁処分となったままで、異なる声を容認できない社会に危機感を示した。(共同通信=大熊雄一郎)

作家の方方さん(共同)

 ▽対応の遅れは体質

 方方さんは昨年1月23日~4月7日に封鎖された武漢の日常をつづり、全60編を短文投稿サイト「微博(ウェイボ)」で公開。政治から距離を置き、あくまでも庶民目線で死者や家族に寄り添う姿勢に共感が広がり、読者は1億人を上回ったと言われる。日本を含む海外でも出版されている。

 ―封鎖から1年となった今の心境は。

 万感迫る思いだ。中国で感染症はよく制御されており、特に武漢ではほぼ再流行は起きていない。世界全体ではいつ落ち着くかも分からない。封鎖当時、感染症が1年も続くことになるとは思いもしなかった。

 ―封鎖措置は意味があったか。

 (封鎖)当時、毎日多くの感染者が出て、さらに春節(旧正月)シーズンだったため、無数の人々が各地に出て行こうとしていた。都市を封鎖しなければ、その悪影響は想像するのも恐ろしい。発生初期のころの武漢での毎日の死者数を考えれば、(封鎖は)やはり必要だったと思う。そうでないと武漢の感染症はコントロール不能だった。

中国・武漢で、市内から出る列車の運行が停止された鉄道駅=2020年1月23日(共同)

 ―日記では当局による感染症の隠蔽を繰り返し指摘していた。

 対応が遅れたのは、意図的というよりも、ある種の習慣だった。(中国では)祝日期間中や重要会議がある間、あらゆるマイナスのニュースを報道させないようにする。こうした習慣は何年も続いている。ほかのことなら対応を遅らせても問題はなかったかもしれない。しかし、今回はウイルスだ。今回の教訓を経て、人々は人命に関わる問題では、少なくとも隠蔽するようなことはあってはならないと気づいた。

 ―「武漢日記」は日本を含む世界各国で高い評価を得ている。1人の武漢市民の日記がなぜここまで影響力を持ったのか。

 ありがとうございます。皆が「武漢日記」に注目しているのは、結局のところ感染症に注目しているのだ。武漢は最も早くロックダウンされた都市だった。

新型肺炎の影響で、人けのない中国・武漢市内=2020年1月25日(共同)

 ▽異なる声を排除

 欧米や日本で方方さんの日記を出版する動きが広がると、国内の保守系の学者やメディア、インターネット利用者が方方さんを「売国奴」などと激しく攻撃し始めた。中国でも出版の準備が進められていたが、出版社が圧力を恐れて本を出せなくなった。当局も方方さんへの攻撃を黙認している。

 ―政府寄りの愛国主義者である左派の攻撃は続いているのか。

 そうだ。彼らの攻撃はずっと続いている。最大勢力は、もともと私に敵意を抱いていた極左だ。また、2019年に香港で(政府への抗議デモが過熱する)事件があった際に、(中国で)愛国であればどんなにひどいことを言っても良いと考える連中がでてきて、私は彼らを批判して論争になった。そうした人たちと極左勢力が結託して攻撃している。

 さらに、私が日記で責任を追及した人も関係しているだろう。ただの愛国心だけで、インターネット暴力が1年も続くはずがない。強烈な思いを持った人による報復行為だろう。

 彼らは政府に批判的な人や、自身と異なる声を容認することができないのだ。

中国・武漢の空港に到着し、バスに乗り込むWHOの国際調査団のメンバーら=1月14日(共同)

 習近平指導部がコロナとの闘いへの勝利をアピールする中、当局が描くストーリーにそぐわない声はかき消されつつある。今月、世界保健機関(WHO)の国際調査団が武漢入りしてから方方さんへの圧力は強まり、当局は海外メディアの取材に応じないようくぎを刺した。「当面、取材を受けるのはこれで最後」だという。

 方方さんは、日記で国のあるべき姿についてこう記していた。「一つの国が文明国家であるかどうかの基準は、ビルがどれほど高いとか、車がどれほど速いとか、武器がどれほど大きいとか、軍隊がどれほど強いとか、科学技術がどれほど発達しているとか、芸術がどれほど高尚だとか、さらに、会議がいかに豪華だとか、花火がどれほど華やかとか、ましてや、どれほどの多くの人が豪遊して全世界を買いあさるだとか、そういうことではない。基準はたった一つしかない。それは弱者に対する態度だ」

 今冬に入り、中国でコロナが再流行する中、方方さんのメッセージが改めて注目を集め、懐かしむ声が出ている。

 ―将来、「コロナの口述史」といった作品を作る考えはあるか。

 本当にやるべきことだと思うし、誰かがやっていると信じている。その意義は言うまでもない。しかし、私自身はいま、そうした仕事を組織する気力はない。

「武漢日記」の作者、方方さん(本人提供・共同)
日本で出版された「武漢日記 封鎖下60日の魂の記録」

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 方方(ほうほう) 1955年、中国江蘇省南京生まれ。本名は汪芳(おう・ほう)。湖北省武漢市の武漢大を卒業後、地元のテレビ局に勤務し、創作活動に従事。2010年、中編「琴断口」が中国で最も栄誉ある文学賞の一つ、「魯迅文学賞」を受賞。湖北省作家協会主席も務めた。