罰則規定

 〈入院を拒否すると1年以下の懲役か100万円以下の罰金〉〈営業時間短縮の命令を拒んだ事業者には過料〉-新型コロナウイルス対策に伴う感染症法や新型コロナ特別措置法の改正案に盛り込まれた「罰則規定」が論議を呼んでいる▲懲役も罰金も刑事罰だ。その新設が慎重に行われるべきなのは言うまでもないが、それ以前に、幾つも問題をはらんでいる気がしてならない今回の改正論議▲目の前にある危機に対応するために法律を改正し、仕組みの変更を図るのは「泥棒を捕らえて縄をなう」の典型に思える。法改正には一定の周知期間も必要だ。“現在進行形”の危機に対する効き目は疑わしい▲「火事場泥棒」という言葉もある。この機に乗じてあれもこれも-と政府が権限の強化を狙うのはアンフェアだ。恒久的なルール変更は本来、事態が収束を迎え、緻密な検証を終えてから着手すべき作業▲これまで幾度かウイルスを「見えない敵」と表現してきたことを思い出している。入院を拒む人や時短要請に応じない店はその姿が見える。だが、そうした人々を罰則で可視化して、ウイルスの代わりに“敵”扱いしてみたところで基本的な解決は遠い▲改正案を巡る与野党の修正協議が急ぎ足で進む。冷静な議論を-と望む時間は残されているだろうか。(智)


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