【解説】非核化交渉再開に焦りを募らせる米韓

 朝鮮の核抑止力高度化に危機感を抱く米国と韓国、日本は、朝米非核交渉の道筋を開くことができず焦りを募らしている。

喫緊の課題

 ブリンケン米国務長官就任と関連して米韓外相電話会談(27日)が行われたが、韓国側は「北朝鮮の核問題がバイデン政権でも早急に取り組むべき喫緊の課題だという認識を共有し、米韓両国が緊密に協議していくことで一致した」と発表した。

 朝鮮の“核問題”は“早急に取り組むべき喫緊の課題”と指摘し、それが“共通の認識”、つまり米国の意思も反映したものとわざわざ強調しているのは、交渉の道を開けない米韓の共通したもどかしさの裏返しのようだ。

 度重なる朝米交渉再開、北南会談開催提案にも関わらず、ピクリとも動かず「敵対政策の撤回」を求めて交渉再開要求に応じようとしない、朝鮮に対する米韓側の焦燥感の表れと言ってよいだろう。

 ホワイトハウスのサキ報道官は「我々は北の抑制に重大な関心」を持っている、「バイデン大統領は北朝鮮の核と弾道ミサイル、他の拡散関連活動を国際平和と安保、国際非拡散体制に対する重大な脅威とみていることには疑問の余地がない」と述べ(22日)たが、この発言は、ブリンケン国務長官の意向をなぞったもの、との指摘が専らだ。

 ブリンケン国務長官だけではなく、国務副長官に指名されたシャーマンも機会あるたびに“圧力を強めて非核化交渉の席につかせる”と述べている。

 朝鮮が非本質的問題と一蹴した人道支援などを掲げて、早急な南北会談再開に腐心しているのは文在寅政権も同様だ。

 26日に行われた中韓首脳電話会談について、韓国大統領府は習近平国家主席の訪韓と南北会談について力点を置いて発表、中国も南北会談に肯定的だと強調した。しかし新華社通信の報道文で中国側は、習近平国家主席の訪韓と南北会談について言及すらしていない。

 このような中国側の姿勢と韓国大統領府の発表を改めて報道し、習近平国家主席の訪韓と南北会談について強調している韓国マスコミの姿勢は、文在寅政権の当惑ぶりを反映しているようにみえる。

ミサイル防御を危険にさらす

 米韓が中断された朝鮮との交渉再開に焦燥感を募らせる理由は明らかだ。

 駐韓米軍に12年間勤務した後、米情報機関で2014年から20年まで「北朝鮮担当」を務めた、マーカス・カラウスカス氏は「北朝鮮が多弾頭ロケットを試験発射することを必ず阻止しなければならない」と主張、その理由として「多弾頭ロケットは米国のミサイル防御を危険にさらすためだ」と述べ、朝鮮との交渉を早急に始めることを提言している。ここでいう「多弾頭ロケット」とは昨年10月の閲兵式で披露された「怪物ICBM」のこと。

 朝鮮の核抑止力高度化を目の当たりにし、マーカス・カラウスカス氏のように、朝鮮と早急に交渉して、これ以上の核抑止力高度化を何としても阻止しなければならないと、進言している米国の核専門家がふえている。

 朝鮮労働党第8回大会の報告を見ると、朝鮮の核高度化計画のうち、多弾頭個別誘導技術の完成、固体エンジン大陸間弾道ロケットの開発は最終段階にあり、極超音速滑空飛行戦闘部を開発は試験政策の段階に至っている。

 米国としては何としても朝鮮の核抑止力高度化を止め凍結させたいところであり、早期交渉再開に焦る理由はこの辺にあるのだろう。

「횡설수설(フェンソルスソル)

 朝鮮語に「횡설수설(フェンソルスソル)」という言葉がある。でたらめや筋道の合わぬことをやたらに言い募ることを指す。日本語に訳すと「橫說竪說(オウセツジュセツ)」になるらしいが、その意味は、「自由自在に述べたてること。縦横に説き述べること」と解説されている。

 ニュアンスは大きく異なり、「횡설수설」はでたらめを述べたてることをとがめるニュアンスで使われる。

 最近、朝鮮の対米姿勢をめぐり、「횡설수설」する言説が後を絶たない。米韓日の当局者、専門家、マスコミは、朝米関係問題に対するバイデン政権の優先度は低い、米国の関心を引くため朝鮮が「挑発」(ICBMなどの実験)しかねない、経済的に困窮しており交渉に応じざるを得ないー等々、まるで朝鮮が朝米交渉を望んでいるかのような言説を流布している。朝鮮が敵対政策を撤回しない限り非核化交渉はない、と明確にしている状況で、優先順位を云々してみ意味がない。優先度が低いと言えば朝鮮側が焦るとでも思っているのだろうか。あまりにも愚かで反論の価値もない。また経済的困窮をでっち上げ、交渉を望んでいるのは朝鮮であるかのごとく主張しているが、朝鮮が制裁は交渉カードにならないと、突き放していることを忘れた健忘症がなせる根拠なき言説に過ぎない。

 さらに、新兵器の実験は開発上の必要性に応じて行うもので、米国の気を引くために行うとする専門家や記者の知能は幼稚園児にも劣ると言わざるを得ない。

 明らかに朝米交渉再開のために腐心しているのは米韓であるにも関わらず、事実を捻じ曲げ朝鮮が交渉を欲しているかのように「횡설수설(フェンソルスソル)」して世論を惑わせようとしている。朝鮮の一挙手一投足に付きまとい、まるでストーカーのように・・・。

 米国が非核化交渉の再開に焦りを募らせているのは、朝鮮の核抑止力高度化になす術を失っている危機の表れだ。

 軍事、経済的圧力が無力化され、交渉の道も断たれている中で敵視政策の撤回以外に打開の道はない。筋道が合わないでたらめな言説、「횡설수설(フェンソルスソル)」が目立つのは危機の表れのようにみえる。(MK)

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