コロナ禍の「サラ川」

 勤め人ならば、時に同僚や仕事相手とぶつかることもある。おうおう、上等じゃないの…とは、今では聞かれない口上だが、苦笑いを誘うこんな一首がある。〈おお、おお上等じやないのと言ひかへし机たたけば机は硬い〉島田修三▲言い返した後、たたきつけたこぶしはジンとしびれたに違いない。大見えとは相手を前にして切るものだが、近頃はそんな場面もまず見られないだろう。仕事での非対面のやりとりが浸透している▲自宅など、職場から離れた所で仕事をする「テレワーク」が勧められ、働く人に新たな悲喜劇が加わった。〈会社へは 来るなと上司 行けと妻〉。板挟みらしい。きのう発表された「サラリーマン川柳」の上位100句は、働き方や生活の変化を詠んだ作品が多い▲〈コロナ禍が 程よく上司を ディスタンス〉。部下にとっては「上」との今の距離感がいい感じなのだろう▲上司といえば敬遠され、新人といえば「今どきの若者」としてぼやきの的にされる。サラ川(せん)の定番だが、今回は職場の上下関係を詠んだ作品が少なかったという。距離感の表れだろうか▲昔の優秀作に〈ただでさえ無礼な部下の無礼講〉というのがあった。職場であれどこであれ、距離を置くことが重んじられるいま、一句の風景はほほ笑ましくも、どこかほろ苦い。(徹)

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