なべやかん遺産|「歪んだ怪獣ソフビ」 芸人にして、日本屈指のコレクターでもある、なべやかん。 そのマニアックなコレクションを紹介する月刊『Hanada』の好評連載「なべやかん遺産」がますますパワーアップして「Hanadaプラス」にお引越し! 今回は「歪んだ怪獣ソフビ」!

珍味の味わい

子供の頃、とても神経質だった。机に物を置いた時、机の端と置いた物が水平になるようにしないと気持ちが悪かった。

几帳面といえばそうなのかもしれないが、部屋の片付けとかはやらないので散らかっている。左右対称に関しても、神経質なくらい敏感だった。散髪に行っても、鏡に映る自分の髪の盛り上がりが左右少しでも違うと、それを美容師さんに注文を付けていたので、常に苦笑いされていた。

おそらく「面倒臭いな、このクソガキ」と思っていたのだろう。

怪獣ソフビを集めだした頃も、ソフビを正面から見て左右非対称の物が好きになれず、造形的に体が歪んでいるものなんてもってのほか、コレクションとして欲しいと思わなかった。

怪獣ソフビが増えていき棚に陳列する時も、全ての怪獣を正面に向け足先を揃え一直線に並べた。さらに数が増えていくと尻尾が長い怪獣もあるので真正面だと棚の奥に尻尾がぶつかってしまうため斜めに飾るようになった。

その結果、様々な角度から怪獣ソフビを眺める事になり、怪獣ソフビの味がより理解出来るようになっていった。

これは怪獣に限った事でなく、様々な事に関し視野が広がっていったという事だろう。

マルサン(ウルトラセブン時期は社名がマルザン)の怪獣&宇宙人ソフビの中には左右非対称のものがある。左右非対称のデザインではなく、単に体が歪んでいるもので、おそらく原型師の癖だろう。

コレクションを始めた頃は、そういったソフビが好きになれずコレクションに加える事はなかった。マルザンのウルトラセブンの怪獣&宇宙人にはそういったものが多かったので、セブン関連のマルザンソフビは若い頃は手に入れたいとは思わなかった。

時が経ち、カラスミや豆腐ようなどの珍味の味がわかるようになった頃、歪みのあるソフビ達の味もわかるようになっていった。歪みは造形師の癖であるが、そこから来る温かみのあるデフォルメ感と躍動感を感じられる。

それはやはり様々な角度からソフビ人形達を眺めてきた影響だろう。

マルザンのエレキング。今にも動きそうな躍動感がある。

それでは左右の歪みのある怪獣ソフビ達をご紹介しよう。ミクラスは一見左右対称感はあるが、骨盤の歪みや肩の高さのズレもある。

ミクラスと劇中で戦ったエレキングはもっと左右非対称だ。昔はこの歪みが凄く嫌だったのだけれど、ちゃんと見ると、今からこちらに向かって来そうな足の構え、戦う姿勢が感じられ凄く恰好が良い。

ヒッチハイカーのようなイカルス星人。左手の親指をサムズアップ。
微妙な歪みのメトロン星人。昔はそれが嫌だったが今では大好き。
ユートムは比較的左右のバランスが良い。

イカルス星人も左右の手足が違う。ヒッチハイカーのようなポージング。何かをしようとしているスタイル、それが良い。

メトロン星人は微妙な左右の歪みがある。ゆる~い感じの歪み、おそらく造形師さんの癖であろう。このゆる~い感じはユートムにも表れているが、ユートムは比較的左右のバランスが良い。元々左右非対称なデザインなので、許せる部分があり、昔から持っている。

歪みの味、この味がわかりだすと魅力にハマり現在はメトロン星人が増殖しウルトラセブンもお手上げだ。

数が増えてウルトラセブンもお手上げ。

ゴジラブルーの魅力

歪み怪獣ソフビの魅力を理解出来た最初のきっかけは、キングコングのソフビを知ってからだ。

マルサンから発売されたキングコング。と言いたいところだけど、版権の問題でジャイアントゴリラという名前で発売された。

マルサンのオリジナル怪獣として当時発売されているが、アニメ版『キングコング』時期であり、東宝映画『キングコングの逆襲』(1967)でコングと共に登場したゴロザウルスもこの時期に発売されているので、間違いなくこれはキングコングだ。

ジャイアントゴリラの歪みは強烈。こんな体で整体の施術に行ったら整体師さんがビックリしてしまう。ギックリ腰の時、鏡に映る自分の姿はこんな感じだ。それなのにジャイアントゴリラには重厚感や趣があるのは何故だろう?

おそらくそれは成形色がゴジラブルーだからだ。いきなりゴジラブルーと言われても、マルサンの怪獣ソフビを知らない人にはなんのこっちゃであるから説明しよう。ゴジラブルーとは、マルサンから発売されたゴジラのソフビで使われている成形色の事で、濃いブルーが使われている。

マルサンが怪獣ソフビを発売した当時、ゴジラより先に円谷プロの『ウルトラQ』に登場したガラモンやゴメスなどが発売された。

これらの怪獣の第一期発売品が濃いブルーだったので、マルサン当時モノを愛する怪獣ソフビコレクターはゴジラブルーが好きなのだ。ガラモンブルーと言われないのは、販売数とメジャー度でゴジラの勝ちで、ゴジラブルーが主流となった。

このゴジラブルーの魅力に関しては、いつの日かこの連載で熱く熱く書こうと思う。

左右非対称、これは決して悪くない。人間の顔も同様で左右非対称だから生きた顔になる。左右対称は死んだような顔になるからね。スターウォーズのダースベイダーもそうだった。最初に作られた3部作のダースベイダーマスクは粘土原型から作られたものだったので左右非対称。

ところがエピソード3(2005)に登場したダースベイダーは3Dデータで作ったモックアップが原型になっているので左右対称の顔になった。その為、なんの面白みもないマスクが完成してしまった。皆さんには是非それを画面で確認してもらいたい。

ソフビもマスクもパソコンで作った造形物は面白みがない。アイアンマンのようなメカはそれでも良いが、やっぱり怪獣は駄目だ。今後バンダイから発売される怪獣ソフビもそういった歪みの味を出してくれたら良いのにと思っている。

ゴジラブルーが美しいジャイアントゴリラ。ギックリ腰の時の自分はこんな感じの立ちポーズになる。

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なべやかん

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