縦割り、肥大化、課題だらけ 中央省庁再編20年、再々編は?

 かつて「大蔵省」という役所が霞が関にあったのを覚えていますか?2001年1月に中央省庁を1府12省庁の体制に再編してから、今年で20年が経過しました。1996年に当時の橋本龍太郎首相が着手したこの省庁再編は、霞が関という強力な官僚機構のスリム化と、政治家が政策の方向性を決める「政治主導」の実現を目的としていました。

1998年1月、中央省庁再編等準備委員会の席で関係書類に目を通す橋本龍太郎首相(中央)=国会

 例えば大蔵省は、国の予算をつかさどる財政担当の財務省と、銀行などの監督や金融行政を担う金融庁に分離し、一定の成果を上げました。その半面、今なお省庁の在り方を巡る問題は少なくありません。新たな省庁改革の課題を考えてみました。(共同通信・高城淳)

 ▽目指したもの

 2001年の再編は、厚生省汚職事件など行政不信の高まりを背景として、首相直属の「行政改革会議」で案をまとめました。

 目指したのは首相の権限強化です。首相を補佐する内閣府も新設しました。菅義偉首相の任命拒否問題で注目された日本学術会議も内閣府が所管しています。省庁幹部人事を一元管理する内閣人事局が2014年に発足したのと相まって首相官邸の力は強まり、安倍政権では「1強」政治や官僚による「忖度(そんたく)」がたびたび問題視されました。

内閣人事局の発足式で看板を掛け、写真に納まる菅義偉氏(右)ら=2014年5月30日

 東日本大震災の復興政策の司令塔、復興庁が2012年に発足し、現在は1府13省庁の体制です。復興庁は2021年3月の設置期限が、2020年の法改正で10年延長されました。

 ▽縦割りの象徴

  2020年9月に就任した菅義偉首相が最初に掲げたのは「縦割り打破」です。新型コロナウイルス対応の際に露呈した行政のデジタル化の遅れは縦割りの象徴だとして、デジタル化推進を内閣の主要課題に位置付けました。2021年9月にデジタル庁を設置し、他省庁にデジタル化を迫る強い権限を持たせる方針です

記者会見する菅義偉首相=2020年9月16日

 再編から20年が過ぎましたが、少子高齢化やデジタル化など社会の変化のスピードに対応し切れていないとして、再々編を唱える声があります。

 ▽巨大官庁

 まず見直しの候補に挙がっているのは厚生労働省です。医療、年金、介護に加え、子育て、働き方改革など生活に直結する重要政策を担っています。これに、新型コロナ対策がのしかかっているのです。厚労省関連のニュースに触れない日はほとんどないと言っていいでしょう。

厚生労働省等が入っている中央合同庁舎5号館=東京・霞が関

 20年前、社会保障政策と労働政策は一体で進めるのがいいと、厚生省と労働省が統合して発足しました。国の政策に充てる経費の割合を見ると、一般歳出約66兆9020億円のうち49・5%を所管する巨大官庁です(2021年度予算案)。2022~2025年には第1次ベビーブームに生まれた団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、仕事の負荷はさらに増える見込みです。

 厚労省では、見過ごせない問題が次々と明らかになっています。外局の社会保険庁による年金記録のずさんな管理「消えた年金」問題が2007年に明らかになりました。社保庁は廃止され、日本年金機構ができました。毎月勤労統計の長年にわたる不正では、2019年度予算案が異例の閣議決定やり直しに追い込まれました。

 新型コロナ対応でも検査体制や医療支援の遅れ、厚労省職員の過重労働と疲弊が伝えられています。

 ▽見直し阻むのは

 政権与党である自民党は、厚労省の業務見直し案を何度か議論してきました。行政改革推進本部が2018年にまとめた報告書は、各省庁定員当たりの業務量を比べ、厚労省の過大な負担を問題視しました。子育て政策が内閣府、文部科学省にまたがるとして、新たな官庁の設置の検討も提案しています。

 一方、厚労省内からは「新型コロナ対策は社会保障と雇用労働分野の施策を一体的、横断的に進めた」などと分割けん制論が聞こえてきます。与党には、厚労省の官僚と親しく、業界団体にも通じた「族議員」もいます。彼らは予算や権限の縮小を警戒し、「必要なのは人員増だ」と分割に反対しています。

 こうした省庁改革の原則は「スクラップ・アンド・ビルド」です。廃止対象になる役所の抵抗はすさまじいものです。実現するには、膨大な時間と、人的労力という政治的なエネルギーが必要となります。

 ▽肥大化

 課題は厚労省だけではありません。2001年創設の内閣府は、省庁再編の目玉でした。首相を助け、各省より一段高い立場で政策の企画立案や総合調整を担うと期待されていました。

 しかし、自民党行革本部は内閣府の現状を「各省にまたがる案件が下ろされて肥大化しすぎ『弱い官庁』となってしまった」と厳しく分析しています。省庁からの出向者に頼る人員構成も背景にあるようです。

 「役所の中の役所」と言われる財務省を巡っては、税金を集める国税庁を分離して、税と社会保険料を一体的に徴収する「歳入庁」の構想が時折、浮かんでは消えます。2009年に政権を取った民主党が実現を目指しましたが、頓挫しました。森友学園問題が起きた際にも再び取り沙汰されました。

2000年12月、制作中の、省庁再編で大蔵省から名称変更される「財務省」の看板=東京・上野の東京芸術大

 ▽けん制手段

 菅首相は省庁再々編に「強い関心を持っている」(自民党幹部)とされています。ですが官僚と族議員の反発は必至で「政権に体力がなければ失敗する」との声が漏れてきます。新型コロナ対策が後手に回ったと批判されて内閣支持率が落ち込んでおり、霞が関には省庁再々編への冷ややかな視線があります。

 衆院議員の任期も年内に迫っている現状では省庁再々編に本格的に切り込むのは難しく、今のところ「けん制」の域を出ていないのが実情です。

 ×  ×  ×

 中央省庁再編 1996年に当時の橋本龍太郎首相が1府22省庁を半減させる構想を提唱。

 

明治維新、終戦直後に続く大改革と触れ込み①政治主導の確立②行政のスリム化―を目指した。「橋本行革」と呼ばれ、森内閣当時の2001年1月、1府12省庁体制がスタートする。建設省、運輸省、国土庁を国土交通省に統合するなどして縦割り行政打破を狙った。首相を補佐するために新設した内閣府を他省庁より格上に位置付けたほか、政治主導に向け副大臣、政務官制度も設けた。

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