6週間の「気付き」共有  第5部 学び (4)伝える 順天堂大(4)

ゼミ初日、順天堂大大学院に留学中の中国人医師(左から3人目)を模擬患者に「やさしい日本語」を実践する同大の学生ら=2020年10月12日午後、東京都文京区本郷2丁目

 モニターの向こうで、約200人の医療者らが自分を見つめている。順天堂大医学部3年山田春花(やまだはるか)さん(22)は緊張を抑えて自身の気付きを発表する。

 2020年10月末、山田さんは、所属する基礎ゼミの指導教授武田裕子(たけだゆうこ)さん(59)らが企画した「やさしい日本語」に関するシンポジウムに参加していた。やさしい日本語は相手に配慮した簡単な日本語を指し、武田さんは医療現場での普及を目指している。

 山田さんは話を聞いてもらうだけで不安やストレスが和らいだ外国人の体験談を聞き、どんな患者に対しても安心安全な診察の場をつくる重要性を実感していた。

 「やさしい日本語のコミュニケーションはとても大切。医学教育のカリキュラムに組み込むことで、将来医療職に就く多くの学生が学べると思います」。自信を持って提案した。

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 体験を通じて健康の社会的決定要因を学ぶ武田ゼミは10月12日から6週間の日程で行われた。その期間中、武田さんは代弁者を意味する「アドボケイト」の役割が医師に求められていることを繰り返し説いた。

 ゼミ生6人がその一環で企画したのが、性的少数者を題材にしたドキュメンタリー映画の上映会だ。

 きっかけは、当事者でもあり法整備に取り組む参院議員石川大我(いしかわたいが)さんへのインタビューだった。

 全ての人にマイノリティー性があり、必ずしも自分たちがマジョリティーであるわけではない。自分たちが知ったことを、他の学生や教職員にも知ってほしい-。そんな思いで開催した上映会には63人が来場した。

 中心になって準備した宮塚悠子(みやつかゆうこ)さん(22)は、こう振り返る。「開催案内を通じて『私たちはLGBTQに関する問題に関心があり、大切に思っている』というメッセージを出せたのは、すごく意義のあること」

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 ゼミの集大成として、11月18日午後、同大センチュリータワーの一室で活動発表会が開かれた。6人にはアドボケイトとして動画教材の作成が課せられており、昼間に完成したばかりの映像がスクリーンに映し出される。

 「ホームレス状態の人、外国にルーツのある人、貧困家庭の子供たちについて考えたこと、ありますか」

 そんな問い掛けで始まる映像は、活動報告とゼミ生の率直な気付きを交えてストーリーが進む。

 仲間に何度も思いを伝える中で言葉の重みに気付いた渡辺綾(わたなべあや)さん(22)、さまざまな人の背景に触れて当事者意識が芽生え始めた国富太郎(くにとみたろう)さん(21)。発言に苦手意識があった鈴木絢子(すずきあやこ)さん(21)は、考えを声に出す大切さを知った。

 「私たちがやらなければいけないことは、関心を持って真摯(しんし)に向き合うこと。そして、知ったことを伝えていくことだと思う」

 吉田真子(よしだまこ)さん(21)の熱を帯びた言葉で映像が締めくくられると、少し間が空いて、静まり返った教室に拍手がわき起こる。

 その先に、6週間前とは少し違う、医師としての顔をのぞかせた6人がいた。

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