背景探る視点 学外で養う

第5部 学び (6)地域を知る 筑波大

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実習で気付いたSDHについて報告する筑波大の学生ら。地域に出て得られる学びは大きい=2020年10月30日午前、茨城県つくば市天久保2丁目

 大学の外で、初めて気付くことがあった。

 「生活と診察の間にギャップを生まないよう、患者さんの生活状況を想像することが大事なんだ」

 筑波大医学群医学類5年藤森里桜(ふじもりりお)さん(23)はそんな思いを強くする。きっかけは、2020年10月の地域医療実習だった。

 茨城県神栖市で、喫煙者の多い製鉄工場の労働者にたばこに関するアンケートを実施した。ほとんどが若いころ、喫煙者が多い環境に影響されて吸い始めたことを知った。利用したタクシーの運転手は、待ち時間をつぶすためにたばこが手放せないと話していた。

 「自分の感覚でお酒やたばこをやめなさいと一方的に言っても溝ができてしまう」。月末に大学で開かれた総括発表で、藤森さんは患者の視点で考える必要性を同級生と共有した。

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 筑波大は18年度から、貧困や格差といった「健康の社会的決定要因(SDH)」を学ぶ教育プログラムを本格的に導入した。必修カリキュラムとして医学生全員が受講する。

 5、6年の学生が計4週間で茨城県内の3、4カ所の地域を巡り、医療機関などで出会った人にどんなSDHがあるか調査。ワークシートにまとめる。

 中でも神栖市での実習は独特だ。「地域診断」では、市の統計や歴史、文化などを参考に、住民の健康への影響を考える。青果店や弁護士事務所など異業種の仕事を見学することもあった。多様な活動を通じて、患者だけでなく「地域全体をみる」という視点を養う。

 教育プログラムの作成に関わった同大講師の堀内明由美(ほりうちあゆみ)さん(49)は「教室で教えてもその場限りになってしまう。現場に出ることが学びの定着につながる」と狙いを説明する。

 同5年内山絢登(うちやまあやと)さん(23)は、10月の実習で同行したベテラン男性医師の姿が印象に残っている。

 その医師は、すれ違う地域住民の家族や病歴について詳しく知っていた。胃の不調を訴えて受診した患者には「仕事を休んでみてはどうか」と助言した。現在の職場が休めそうな雇用環境にあると、把握していた上での指摘だった。

 「実習では症状をみるだけで、患者の健康の裏に家族や仲間がいることはほとんど考えていなかった。総合診療科や地域の医師は、そんな背景の部分もしっかり掘り下げている」。SDHを知ることが診療の質にも影響するという現実を、実感するようになった。

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 SDH教育は、教える側にとっても手探りの日々だ。教員自身もSDHを系統立てて教えられた経験がない。どのように学生と関わることで効果的な学びにつながるか、修正を加えながらプログラムを進めている。堀内さんには「学生と一緒に学んでいる」感覚がある。

 「病気に至るまでの背景に思いを寄せて、やるべきこと、つなぐべき場所を考える。対応次第で相手の将来が変わってくることを、想像できる医療者になってほしい」

 堀内さんはそんな願いを込め、教育のあり方を模索している。