読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。 今回の相談者は、29歳、会社員の男性。マイホームを購入後に、2軒目の不動産投資を考えている相談者。その際、利回り重視の物件か、節税効果の高い物件、どちらを選べばよいのか悩まれています。FPの横田健一氏がお答えします。
現在、不動産投資・個別銘柄株式投資・投資信託・ETF・保険運用を行っております。現状、不動産投資の実質利回りで0.1%程です。
今後、マイホームを購入後にもう一件投資用不動産を購入したいと考えています。今回の相談はもう一件追加購入する不動産についてなのですが、
(1)利回り重視の物件
(2)節税や生命保険代わりとしての物件
どちらのほうがメリットが大きいでしょう。
ちなみに、転職を考慮しており、本業年収を550万円程度と副業収入5〜10万円/月に変更予定です。また現在は個人事業としてwebライターも行っているのですが、今後法人として不動産管理やその他の投資商品での収益化を検討しております。(※一部内容を編集しています)
【相談者プロフィール】
・男性、29歳、会社員、既婚
・同居家族について:妻(27歳)、子ども(2歳)
・住居の形態:賃貸
・毎月の世帯の手取り金額:35万円
・年間の世帯の手取りボーナス額:60万円
・毎月の世帯の支出の目安:25万円
【毎月の支出の目安】
・住居費:8万2,000円
・食費:4万5,000円
・水道光熱費:2万円
・教育費:5,000円
・保険料:2万円
・通信費:2万4,000円
・お小遣い:2万円
・その他:3万5,000円
【資産状況】
・毎月の貯蓄額:5万円
・ボーナスからの年間貯蓄額:60万円
・現在の貯蓄総額:80万円
・現在の投資総額:60万円
・現在の負債総額:1,910万円
投資用物件=購入額1,940万円、借入額1940万円、返済期間45年、金利2.3%(団信付き)、残債1,910万円
マイホームローン(予定)=購入額2650 万円+諸費用(計2850万円程度)予定、変動金利0.6%(団信付き)
横田:ご相談頂きましてありがとうございます。株式会社ウェルスペントのファイナンシャルプランナー、横田健一です。
不動産投資の目的として利回りと、節税や生命保険機能のどちらを重視すべきか、というご相談ですね。まずは不動産投資の実質利回り、キャッシュフロー、所得金額といった順番でご説明させていただきたいと思います。
物件自体の収益性を計測する不動産投資の実質利回りとは?
まず不動産投資の実質利回りという考え方を確認していきましょう。できるだけご相談者様が所有されている物件に近い条件で例示できればと思いますが、詳細が不明なところもありますので、以下のような前提で考えさせて頂きます。
投資物件について
●物件種類:区分マンション(1K)
●月額家賃:8万円/月
●管理費:5,400円/月
●修繕積立金:7,000円/月
●固定資産税・都市計画税:6万円/年
●賃貸管理費(集金代行手数料):3,300円/月
●物件価格:1,940万円
計算の前提条件を決めましたので、早速実質利回りを確認してみたいと思います。
まず1カ月あたりの手取り収入を計算すると次のように、5万9,300円/月となります。利回りを計算する時には、あくまで投資対象物件の収益性がどのくらい魅力的か、ということになりますので、融資の条件は一切関係ないことにご注意ください。
月額5万9,300円ということですので、年間では12倍して71万1,600円となり、この金額を購入価格である1,940万円で割った3.67%が実質利回りということになります。
なお、ここでは空室率はゼロと仮定し、取引形態が仲介の場合は仲介手数料等も含めて1,940万円で購入されたという前提で計算しています(売主の場合は、そのまま1,940万円)。空室率については、立地に応じて3%や10%などと計算することもありますが、ここではゼロと仮定しておきます。
ご参考までに、一般的に「表面利回り」と呼ばれる指標もあります。これは単純に月額賃料8万円×12カ月=96万円を購入価格で割って4.95%と計算するものです。ただ、必要経費が考慮されていない指標ですので、投資分析上は重要な指標とは言えません。
融資を含めて考慮した不動産投資のキャッシュフローとは?
次に不動産投資のキャッシュフローを確認していきましょう。手元資金だけで不動産を購入できる方はなかなかいらっしゃいませんので、一般的には融資を利用することになります。今回は次のようなローンを利用して購入されたということで、キャッシュフローを計算してみます。
融資の条件
●借入金額:1,940万円
●借入金利:2.3%(団信付き)
●借入期間:45年
キャッシュフローは次のようになります。賃貸管理費のところまでは実質利回りの計算と同じですが、さらに借入金の返済(5万7,700円/月)が入ってきますので、手元に残るお金は1,600円/月ということになります。
年間のキャッシュフローは12倍した1万9,200円となりますので、購入価格1,940万円で割ると0.1%という数字になります。この数字に名称をつけるのであれば「キャッシュフロー利回り」といったものになるかもしれませんが、不動産投資の投資分析ではあまり一般的な指標ではありません。
さて、ここまで実質利回りとキャッシュフローの計算をしてみましたが、ご相談者様が投資されている物件の実質利回りはどのくらいでしょうか。「0.1%程」とありますが、これは「キャッシュフロー利回り」で考えられていないでしょうか。ぜひご確認いただければと思います。
税務上必要となる不動産投資の所得金額とは?
さらに不動産所得の金額についても確認しておきましょう。
不動産所得を計算する場合、借入金返済金額のうち、元本返済相当部分については費用として計上できませんので、不動産所得計算上の費用は金利相当部分のみとなります。一方、キャッシュアウトを伴わない費用としては建物部分の減価償却費がありますが、ここでは2万5,000円/月と仮定しておきます。
これらの条件で本物件の不動産所得金額を計算すると次のように、月額2,366円(年額2万8,392円)の赤字となります。キャッシュフローの計算と比べて、赤文字の部分が異なっていることに注目していただければと思います。
物件からの所得金額はこのような形になりますが、不動産所得の計算上は、例えば、損害保険料、修繕費用、不動産関係のセミナー参加費や書籍代、税理士報酬といったものも含まれます。こういった関連費用もすべて計上すると、年間で不動産所得が33万円の赤字になったと仮定しましょう。
そうすると、仮に給与所得金額が400万円の場合、不動産所得のマイナス33万円と合算することで、課税所得は367万円となります。ここで確定申告すれば源泉徴収された税金が還付されることになりますので、一般的には「節税できた」と言われているのだと思います。
不動産投資で節税することはおトクなのか?
不動産投資において節税メリットが強調されることもありますが、不動産投資における節税というのはおトクな話なのでしょうか?
仮に、今回の物件を1,940万円ではなく、2倍の3,880万円で購入したとしてみましょう。賃料収入は変わりませんから、実質利回りは単純に半分の1.83%となります。この場合、購入金額が大きくなりますので、キャッシュフローは大幅なマイナスに、そして不動産所得金額の赤字幅も増大することは容易に想像できるかと思います。つまり節税金額は大きくなるわけですが、このような形になっても節税できることはおトクと言えるでしょうか。
いくら節税金額が大きくなるとは言え、物件価格に1,940万円も余計に支払ってしまっては、その分を節税で回収するのは容易なことではありません。
一方、今回の物件を1,940万円の半額である970万円で購入できたと仮定してみましょう。利回りは7.57%となり、キャッシュフローは大きくなり、不動産所得金額も大きな黒字になります。結果的に税金は増えることになりますが、とても魅力的な投資と言えるのではないでしょうか。
今後物件を追加購入するにあたって
マイホームの購入や転職を検討されているとのことですが、そのような場合には投資用のローン審査が厳しくなる可能性があります。特に、マイホームを購入すると、住宅ローンの残高が大きいうちは、投資用のローン審査にあたって厳しめに見られる可能性があります。
今後も物件を購入されたいのであれば、マイホーム購入や転職の前に、投資用のローンを借りる予定の金融機関に早めに相談されておくことをおすすめします。
謳い文句に騙されずに冷静に見極めて
「不動産投資で節税を!」という謳い文句で不動産投資を勧めている会社もあるようですが、投資である限りは、収益性を確認することが非常に重要だと考えています。不動産投資は融資も利用しながら、非常に大きな金額の投資となりますので、目先の節税金額に惑わされることなく、投資として魅力的かどうか、しっかりと検討されてから実行されることをおすすめします。
ということで、ご相談へのシンプルな回答としては、「余程特殊な事情がない限りは、利回りなどを確認の上、あくまで投資としての収益性を重視されるとよいでしょう」ということになります。
以上、ポイントをまとめますと以下のようになります。
●まずはすでに投資されている物件について、実質利回り、キャッシュフロー、所得金額を再度確認してみましょう。
●お金を増やしていきたいのであれば、投資として魅力的な条件で投資を実行していくことが重要です。
●今後も追加投資をされる場合には、マイホーム購入や転職といったライフイベントの前に、投資用ローンを借りる予定の金融機関に事前にに相談しておきましょう。
●投資としての収益性を主目的とし、節税や生命保険機能はあくまで付随的なものとお考えいただくのがよいでしょう。
ご参考としていただけましたら幸いです。