『「目に見えぬ侵略」「見えない手」副読本』㉔脅かされているのは「人権」そのもの 『目に見えぬ侵略』『見えない手』の入門書と言える『副読本』を発売! 二冊の大著から奥山真司氏監修のもとエッセンスを抜き出し、見開き40項目だけでシンプルに解説しています。その中から三項目を特別公開。今回は二つ目「人権」問題について。

中国のご機嫌うかがいばかりする日本政府

中国共産党の海外での影響力が強まり、中国共産党に反対する人々を海外まで追いかけて迫害し、批判者を沈黙させている。その最大の被害者は、永住権などを取得して海外に在住する「中国系」の人々だ。

彼らの中には中国共産党の圧政から逃げるため、大陸や香港から移住した人もいる。だが中国共産党は、他国にも監視の網を張り巡らせて、批判者を封殺する圧力をかけている。

たとえば多くの中国系オーストラリア人は、市民権を持ち、自由や民主主義の価値を認めているが、中国の政治体制を批判する言動を表明したとたん、中国共産党は中国本土にいる彼らの家族や親族を脅したり、ビジネス取引を停止したり、マスコミ報道で実名を挙げて脅したりして、懲罰を与える。

これまで中国系移民が作ってきたコミュニティ組織も、過去15年ほどで、北京の意を汲む多数派によって次々と乗っ取られていった

様々な困難を乗り越えてオーストラリア社会に溶け込もうとしてきた、心ある中国系移民にとっては「もの言えば唇寒し」の状況だ。

オーストラリア政府には「自国民」の権利を守る義務があるはずだが、中国共産党の目を気にして中国系住民への圧力に抗議することすらできない。

日本でも、日本国籍を取得したウイグル出身者たちは、中国本土にいる家族に会いに行くことができずにいる。ひとたび中国に入国すれば、無事に帰国できる保証はないからだ。

日本政府はこうした「自国民保護」が必要な事態に対処しようとせず、中国のご機嫌うかがいばかりしている。

習近平を批判しただけで収監される

不動産会社「華遠集団」会長で中国共産党員だった任志強は、元商務省高官を父に持つエリートだが、歯に衣着せぬ発言で「もの言う企業家」として知られていた。

中国共産党は自らへの批判を「外国人差別」に置き換え、中国に絡めとられた欧米の有識者たちも「中国警戒論は外国人恐怖症」と断じるが、少なくとも脅かされているのは「人権」そのものである中国よりもはるかに人権意識の高いオーストラリアが「人権」で攻撃されるのは皮肉と言うほかない。

「差別だ!」と言われて思考停止する前に、中国のウイグルやチベット、香港政策は一体何なのかを顧かえりみよう。ここを忘れると、人権意識を逆手に取られ、中国共産党を利する結果となる。

中国では、習近平を批判しただけで収監され、精神病院に送られる

2020年、太子党で企業経営者だった任志強は習近平の新型コロナウイルス対策を「裸でも皇帝を続ける道化」などと批判したところ拘束、起訴され、懲役18年と罰金420万元(約6500万円)の実刑判決を受けた。

2018年に上海で習近平のポスターに墨汁をかける動画をアップした董瑤瓊は精神病院に入院させられた。退院後、別人のようにやつれた彼女は2020年11月に「今は何の自由もない」「私の自由精神を殺そうとしています」とツイッターで告発したが、すぐに削除された。

中国共産党が攻撃しているのは人権と自由の普遍的価値そのものなのである。

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