小泉今日子「なんてったってアイドル」今こそ見習いたい!そのシニカルな能天気さ 1985年 11月21日 小泉今日子のシングル「なんてったってアイドル」がリリースされた日

炎上好きは人間の本能? 代わり映えしないワイドショー

最近腑に落ちない事のひとつとして、「なぜ、テレビは毎日同じようなワイドショーばかりやっているのか?」というのがあります。私の周りには「ワイドショーは嫌い」と言っている人も結構居るんですけどね。

いや、実は、嫌いと言っている人達もツンデレなだけで、こっそりと番組をチェックしているのではないでしょうか? さもなければ、どうでもいいような芸能人の不倫記者会見に対して、“5ちゃんねる” の投稿数があんなに伸びる筈がありません。

不倫しちゃった俳優への「奥さんと不倫相手のどっちが好きか?」などという容赦ない質問とか、才色兼備のアナウンサーを貰っておきながら愛人を作ってしまうエリート経営者とか、「あー阿呆くさ~」と言いながら、みんな野次馬気分で見ているのでしょう。まあ、それもそのはず、一説によると、人間には本能的に「燃えている火を見ていたい」という習性があるのだそうです。

仁義なきアナザーサイド・オブ・80s、アーティストvs芸能レポーター

人々の野次馬根性というのは、今も昔も変わらないようですが、80年代はまだインターネットも一般的でなく、噂話を拡散する中心に居たのは芸能レポーターでした。そんななか音楽シーンでも、芸能レポーターやワイドショーを敵視するような楽曲が幾つかありました。

先ず思い出されるのが、山下達郎のアルバム『FOR YOU』(1982年)に収録された「HEY REPORTER!」。シティポップを代表する名盤にこういった毛色の曲があるのは意外な気もしますが、この頃の達郎さんは竹内まりやさんとの交際が取りざたされていた時期で、よほど彼等の存在が鬱陶しかったのか、皮肉たっぷりにレポーター達をぶった切っています。

そして、興味本位の噂話を鬱陶しく感じるのは日本に限った話ではないようで、ジョージ・ハリスンは1987年「デヴィルズ・レイディオ」という曲の中で、ゴシップまみれのラジオ放送を、“まるで急降下してくるハゲタカのようだ” と、これまた皮肉屋の彼らしい言葉をポップなビートに乗せて歌っていました。

冗談で済ませられない? 怒りの導火線に火をつけたアーティストたち

冗談で済ませられるレベルならまだ良いのですが、時にはアーティストの怒りの導火線に火をつけてしまう場合もあるようです。1990年「どぉなっちゃってんだよ」での岡村靖幸の「週刊誌が俺について書いていることは全部嘘だぜ!」という咆哮は、現代の有名人の方々にも共感度が高そうに思えます。

極めつけは1992年長渕剛が東京ドームのLiveで披露した「豚(BUTA)」という曲。「小銭が欲しけりゃ 俺の足の裏なめさせてやるぜ」などと挑発的な言葉で、芸能レポーター達を豚に例えて、積年の鬱憤をぶちかますような、凄い内容の歌になっています。

かつて、ビートたけしが梨本勝を「象にたかる寄生虫」と言って一悶着あったことが思い出されますが、まあ、それでも、どこかに需要があるからこそ芸能レポーターという仕事は成り立つのかもしれませんね。豚や寄生虫扱いされながらも取材の手を緩めない彼らのメンタルの強さには、逆に感心してしまいます。

スキャンダルをおどけて歌った小泉今日子「なんてったってアイドル」

このように80年代から90年代前半にかけては、様々なアーティストが「火のない所に立つ煙」の始末に苦慮していました。一方、お茶の間のアイドルはどうだったかというと、1985年頃から、そうした噂話自体を自分自身で面白がるような世代が登場。興味深い事象としては、この時期「スキャンダル」をキーワードに持つ曲が相次いでチャートの1位を獲得しています。

■ あの娘とスキャンダル / チェッカーズ
■ なんてったってアイドル / 小泉今日子
■ DESIRE / 中森明菜

とりわけ、キョンキョンの「なんてったってアイドル」は象徴的です。「スキャンダルならノーサンキュー」とおどけて見せて、「アイドルはやめられない」と自分で歌ってしまう、それまで耳にしたことのないようなこの曲をラジオで初めて聴いた時、私は「あ、これは売れるな! キョンキョンの代名詞になる曲だな!」と直感したものでした。

スキャンダルを面白がったキョンキョン、冷めた目で俯瞰した明菜

以前、彼女はこの曲について「歌うのはイヤだった」と回想する一方で「この曲を歌えるのは私だけだと思った」とも語っていました。しかし、今思えばこの頃のキョンキョンは、火のない所の煙さえ、自分自身でモクモクと発煙することで、不動の地位を築いていった感があります。

一方で、その3か月後にリリースされた、中森明菜の「DESIRE」。この曲の中で彼女は「何を信じればいいの スキャンダルさえ 時代のエクスタシィよ」と歌っています。この部分はサビ前で見過ごされがちな箇所なのですが、30年以上経った現代でも通用する、なかなか示唆に富んだ歌詞ではないでしょうか。

スキャンダルを面白がるキョンキョンと、スキャンダルを冷めた目で俯瞰する明菜。1985~86年と言えばおニャン子全盛の時代でしたが、そんな中、アイドル界でこの2人が別格レベルでそびえ立っていたのは、納得というほかありません。

「清く・正しく・美しく!」こんな時代だからこそ小泉今日子を見習いたい

そして、時は流れて2020年代。今では匿名で誰もがネット上に燃料投下できる社会になってしまいました。その事が原因で心に傷を負って命を絶つ者がいる一方で、今日も見えない場所から火を付けて廻る者、その傍らで、話題が炎上していく様子を眺めている者…… 新型コロナウイルスという見えない敵が猛威を奮う今の世の中で、実は、人々にとっての一番の見えない敵は、無自覚で無責任な、SNSの中のこうした “一言居士” の面々なのかもしれません。

本当に難しい時代になりましたが、私達はこんな時代だからこそ「アイドルはやめられない!」と歌ったキョンキョンのような、“シニカルな能天気さ” を大いに見習うべきなのかもしれませんね。

ただし、あくまでも「清く・正しく・美しく」ね!!

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