「過労死しそう」「倒れたい」 佐世保署員パワハラ自殺 妻に“SOS”のライン

 「何をしても主人は帰ってこない。それだけです」。自殺した長崎県警佐世保署の警部補=当時(41)=の妻は、自身と夫の結婚指輪を重ねて付けて会見に臨んだ。公務災害認定請求書を提出したことを尋ねられ、数十秒間の沈黙の後、こう口を開いた。この日は亡くなって4カ月後の月命日。机には警部補が使っていた眼鏡も置かれていた。
 警部補として単身赴任した昨年3月以降、自宅へ帰省したのは約半年間でわずか1回。心身の健康を案じた妻が頼み、ようやく実現した機会だった。そんな時ですら仕事を気に掛け、夕食も取らずに佐世保へ帰っていったという。
 激務の中、妻は朝から「今日も1日元気に頑張ろう」などといった言葉やTVの占いの内容をLINE(ライン)で送ることを欠かさなかった。また週1回、妻がおかずを作って届け一緒に食卓を囲むのがささやかな夫婦の時間だった。
 だが次第に送ったメッセージに既読が付く時間帯は遅くなっていく。2日間、既読が付かないこともあった。妻が会いに行っても口数は減り、疲労から寝入ってしまうこともしばしば。警部補が健康診断の(異常がない)結果に落胆したこともあった。健康を気遣い食事を届けていた妻は「病気やけがをすれば夫は現実から逃げられたかもしれない」とさえ考える。
 「夜中に呼び出されて徹夜勤務中です」「もう、倒れたしまいたい」「過労死しそう」(いずれも原文のまま)。夫から送られてくるLINEにはこうした言葉が並んだ。妻は「上司の叱責(しっせき)をストレートに受け止める必要はないよ」などと励ましの言葉を掛けてきた。知り合いに、夫のことを気に掛けてほしいと頼んでもいた。だが夫の抱える苦悩は妻の想像をはるかに超えていた。
 「優しく、真面目」。周囲もそう口をそろえる。人の悪口を言わず、弱音も吐かない。遺書には同僚らへの感謝の言葉や「迷惑を掛けることになり申し訳ない」といった趣旨の内容もつづられていた。
 「そんな性格の主人が出していたSOSだったのに。理解してあげないといけなかった」。妻は声を詰まらせた。


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