菅政権“歴史的”支持率急落の意味|門田隆将 菅政権の支持率が下がり続けている。報道各社の1月の世論調査で菅政権を支持しない「不支持率」が支持率を相次いで上回った。その要因はいったいどこにあるのか――。菅政権が進める“入国フリー政策”の闇を徹底批判!

日本の防疫は「ザル」

菅義偉政権への支持率急落が“歴史的”なものになっている。時事通信によれば、発足直後の2020年10月の支持率は51・2%で3か月後の1月の数字は34・2%。実に17ポイント減だ。私が秘かに“政局水準”と称する20%台への転落は時間の問題である。

秋が過ぎ、とうに冬になっているのに、まるで“つるべ落とし”なのだ。政権に近い筋からは「感染者が急増しているから仕方がない。落ち着いたら復活する」との楽観論も聞こえてくるが、本当にそうだろうか。

国民の不信感は、そこではない。前言を翻して「GoToトラベル」を停止し、緊急事態宣言も四都府県の知事に押し切られる形で「踏み切らざるを得なかった」という“情けなさ”もさることながら、そもそも感染拡大の原因が「菅首相にある」ということを国民は実感としてわかっている。

菅首相の強い要望によって実施されている入国緩和策だ。
中国や韓国など11か国を対象とした長期滞在の駐在員や留学生、技能実習生などのレジデンストラックと、四か国を対象とした30日以内の短期滞在者向けのビジネストラック──世界の感染状況が悪化する中で、それとは逆行する“入国フリー政策”を日本は6月から段階的に進めてきた。

入国の際の措置で日本と中国や台湾、ベトナムなどとは決定的に違うものがある。2週間隔離だ。10日前後と見られる新型コロナウイルスの潜伏期間から弾き出した二週間隔離は有効な手段である。

隔離期間に複数回のPCR検査をおこない、陰性が続けば該当者が陽性でないことが証明されるからだ。

台湾では、入国者を輸送する防疫バスを完備し、さらに隔離中の防疫ホテルの部屋から一歩でも外に出れば、最高36万円の罰金が科せられる。

位置情報把握のためのアプリをダウンロードされている携帯の電源をうっかり切り、夜中に警察が部屋にやってきたというエピソードもある。中国も、ベトナムも、厳しさは同じだ。

だが日本には、そんな防疫ホテルもない。入国者は自分で2週間の滞在場所を探し、食糧を買いに出たり、食堂にも行くという、全くの“ザル”である。

昨年4月から12月一杯まで入国外国人の数は計23万5000人に達する。感染が爆発した11月と12月の2か月だけでも計13万6000人の外国人が日本に入国している。

相互主義でなく“不相互主義”

その中でも菅首相がこだわるのは技能実習生だ。昨年1年間で実に10万5000人の技能実習生が入国していることからも、そのことが窺える。

都内ではマスクもせず、たむろして大声で話す技能実習生と見られるグループに出くわすことがある。前述のように厳格な2週間隔離がおこなわれていない日本で、外国からの入国者が増えるにつれて感染者が急拡大していったのは当然だっただろう。

GoToトラベル停止や、飲食店に責任を被せる前に「政府はほかにやることがあるだろう」と国民は怒っている。蛇口を開けっ放しにしたまま、いくら国民に協力を要請しても共感を得られないのは当然だ。たまたま英国発の変異株問題で外国人の入国がクローズアップされたものの、国民の不信感はすでに限界に達しているのである。

12月下旬、ビジネスで来日した中国人に話を聞く機会があった。日本の政策がいかに問題か浮き彫りになるので紹介しよう。

「仕事で日本に来ましたが、中国から日本へ来ることに障害はありません。日本は入国の際に申告が必要なだけでほかに何もないですからね。問題なのは中国へ帰る時です」

なにが問題なのか。

「中国では一人の感染者が出ると、地区全体が封鎖になって住民全員がPCR検査をやらなければなりません。
何キロ四方にも及ぶ広大な範囲でやるんです。
地方では町全体を封鎖して検査することもある。そのくらいウイルスに神経を使っています。

ウイルスへの厳しい取り組みがわかる。

「陽性なら伝染病センターに直行で強制入院です。帰国後が大変なので外国に出るのは皆、嫌がります。日本がここまでウイルスへの警戒が薄い理由が、私にはわかりません」

国際間の外交措置は相互主義が基本。だが日本の場合は、相手国からはフリーで受け入れ、こっちは規制されるという“不相互主義”だ。そこまで舐められてもこれをやりたい菅首相。支持率急落の理由が奈辺にあるかは自明だろう。

(初出:月刊『Hanada』2021年3月号)

門田隆将

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