元阪神・林威助氏「曖昧な規則ある」 台湾プロ野球、新コミッショナーの課題

CPBLの蔡其昌コミッショナー(左)と楊清瓏事務局長【写真提供:CPBL】

新コミッショナーは熱烈な野球ファン、世界の球界からお祝いのメッセージも

台湾プロ野球を運営するCPBLは1月19日、コミッショナーの改選を行い、蔡其昌・立法院副院長(国会副議長に相当)を満場一致で選出、蔡氏は11代目のコミッショナーに就任した。51歳の蔡氏は与党・民進党籍、熱烈な野球ファンとして知られ、少年野球発展のための支援活動などを行ってきたことから昨年12月、5球団の連名により、次期コミッショナーに推薦されていた。

これまでCPBLのコミッショナーには政財界、学術界などの関係者が就任してきたが、国会副議長というポストは過去最高位ということもあり、同日夕方から開催された呉志揚・前コミッショナーから蔡コミッショナーへの引き継ぎセレモニーには頼清徳・副総統らを始め、政財界、スポーツ界などから、多くの人々がかけつけた。

前身の兄弟エレファンツ時代からの中信兄弟ファンだという蔡コミッショナーは、「これからは全5球団を応援していく」と宣言。5球団の推薦に感謝すると共に、早速、喫緊の課題を解決していくと意気込みを示した。そして、法改正によるスポーツ産業参入企業への税制優遇措置により、既存5球団の経営環境の改善と、ファンが期待する6球団目の誕生を促していきたい、と述べた。

台湾球界では、呉・前コミッショナーと馮勝賢・前事務局長の任期中、それまで微妙な関係にあったプロアマ両組織間の雪解けが進んだ。蔡コミッショナーは席上で、「CPBLと(アマ球界を統括する)CTBAは今日から最良のパートナーだ。台湾野球の栄光のために力を合わせ、最強のナショナルチームをつくりあげよう」と呼びかけた。また、6月中旬に中部・台中市などで開催予定の東京五輪世界最終予選の監督に、プレミア12で監督を務めた富邦ガーディアンズの洪一中監督を指名、洪監督は快諾した。

蔡氏のコミッショナー就任にあたり、WBSCのフラッカリ会長、MLBのマンフレッド・コミッショナーのほか、NPBの斉藤惇コミッショナーからも、お祝いのメッセージが寄せられた。

2日後の1月21日、蔡コミッショナーは、事務方トップの秘書長(事務局長)に、楊清瓏氏が就任したことを明らかにした。63歳の楊氏は、中学時代から世代別の代表として活躍、公開競技だった1984年ロサンゼルス五輪では銅メダル獲得に貢献した。指導者としては、2リーグ分裂時のもうひとつのプロリーグ、TMLの2チームで監督を務めたほか、大学や社会人でもチームを率いた。さらに、IBAF、BFAで技術委員、CTBAでも選抜・強化委員、技術委員を務めるなど、豊富なキャリアをもつ。

蔡コミッショナーは、楊氏の事務局長就任について、野球を愛し、専門知識があり、実務もこなせる人材を探していたと説明。楊氏のキャリア、野球関連規則などに関する知識はもちろん、穏やかで柔軟性がありながら、芯が強い性格も決め手となったと説明、就任要請を快諾してくれたことに感謝した。

リーグ規則やFA制度の全面的整理に着手することも明言

蔡コミッショナーは、楊氏の事務局長就任にあたり、2大優先事項として、リーグの規則や制度の全面的な整理と、新型コロナウイルス対策を挙げた。

そして、リーグの規則については「わかりやすく、かつオープンで、理にかなった」ものでなければならないと強調。昨シーズン、論議を引き起こしたコリジョンルールの適用やFA制度に関する規則など、曖昧なものについては各球団との話し合いを通じて修正していくとして、リーグにはしっかりと説明する義務があると述べた。特に、コリジョンルールとFA制度の問題については開幕前に解決し、メディア及びファンに向けて説明を行う方針を示した。

中信兄弟の林威助・新監督は「現状、曖昧な規則や、不十分な制度がある」と指摘。新体制の下でこうした課題が解決し、選手、チーム、審判が同一の基準をもつことで、誤審が発生しないことを希望した。

台湾では1月中旬、新型コロナウイルスの院内感染が発生。関係者や家族などへの感染も確認され、旧正月休み前後の大型イベントが軒並み中止、延期となっており、台湾プロ野球も、春季キャンプや練習試合の無観客が決定するなど影響が出ている。蔡コミッショナーは、新型コロナウイルス対策についてのリーグの考えとして、感染防止の徹底が優先だと強調。随時、感染状況を把握し、中央感染症指揮センターと密接な連携を図ることで、先手先手の対応、準備を行っていくとして、その上で、予定通りの開幕並びに観客入場の可否について判断すると説明した。

なお、東京五輪世界最終予選は、CPBLが代表選手の選考、合宿、試合開催を担う。楊事務局長は、最終予選、五輪本大会が予定通り開催できるか否かに関わらず、やるべき事は着手すべきだとして、既に対戦国の情報収集を始めたことを明らかにした。

今季の台湾プロ野球は1球団増、13年ぶりに5球団以上で開催

CPBLは2008年に2球団が解散したのち、4球団で1軍公式戦が行われてきたが、呉・前コミッショナーの尽力もあり、2019年に味全ドラゴンズがリーグ復帰を発表。味全は昨シーズンから2軍に参入し、今季CPBLは13年ぶりに5球団以上で1軍公式戦が行われる。しかし、球団数が奇数だと日程が組みづらいうえ、ファンからは6球団目誕生を期待する声が根強い。そして、前述の通り、蔡コミッショナーも税制優遇措置などにより企業参入を促したいとしている。

第6の球団については、国際大会開催も可能な澄清胡球場を有する南部の高雄市政府が、複数の地元企業による共同経営というかたちで、同棒球場を本拠地とする球団設立構想を打ち出している。これに対して、蔡コミッショナーは、高雄に新球団が誕生することを期待しつつ、高雄市側にも、企業参入を促すための具体的な動きを求めている。

蔡コミッショナーは、メディアのインタビューに対し、友人から推薦された1社を含め、企業4社を候補として考えていると答えたほか、27日に出演したラジオ番組では、消費者と直接接する小売業をターゲットとしている、と明らかにした。蔡コミッショナーは、新型コロナウイルスの影響に加え、加盟金など参入へのハードルの高さもあり、今年中に話がまとまるかどうかはわからないとしたものの、球団経営のための環境の改善、参入意欲を高めるための各種取り組みを行い、第6の球団誕生に向けて全力で努力していくと述べた。

今シーズンの台湾プロ野球は味全ドラゴンズの1軍参入に加え、中信兄弟の林威助・新監督の就任、そして陳冠宇(元ロッテ)ら「大物帰国組」のドラフト会議参加表明など、多くの話題がある。昨年同様、政府が「先手先手」の取り組みによってコロナを抑え込み、リーグも万全の感染防止対策を行うことで、新体制の下、ペナントレースが盛り上がりをみせ、6球団目誕生への機運が高まることを期待したい。(「パ・リーグ インサイト」駒田英)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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