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神奈川県逗子市池子でマンション下の斜面が崩落し、市内在住の県立高校3年の女子生徒=当時(18)=が死亡した事故から5日で一年となる。女子生徒の父親(54)が4日、神奈川新聞の取材に応じ、責任の所在を明らかにして二度と同じ被害を出さないよう、斜面の区分所有者らを相手に5日、横浜地裁に提訴する考えを明らかにした。父親は「将来に希望を持ち、人生をもっと楽しもうとしていた」と愛娘への思いを語り、斜面の状況確認や安全対策があれば事故は防げたとの思いを胸に「事故は人災」と訴えた。
◆父「いつも優しい子だった」
「娘はいつもそばにいる」。父親が、この一年変わらず抱き続ける思いだ。「よく時間が解決してくれるとか言いますが、そんなの絶対うそです。時間がたてばたつほど、いろんなことを思い出す。娘のいる時間に戻してほしい、娘を返してほしいという気持ちは増えるだけなんです」
教師を目指し、大学進学が決まっていた愛娘は「本当に優しい子だった」という。アルバイトで稼いだお金で、大好きな妹をディズニーランドに連れて行く約束もしていたという。東日本大震災の被災地支援にも取り組んでいた。
民有地の崖地の対策不足や管理責任が浮き彫りになった事故。これまでに、事故前日にマンション管理人が亀裂を発見していたことや、管理会社が亀裂の存在を行政に伝えていなかったことなどが明らかになっており、事故の兆候が見逃されたことに、悔しさを抱いている。
◆造成時の詳細な記録残らず
1960年前後とされる現場斜面の造成時は、現在のような開発許可制度はなく記録の詳細も残っていない。事故後の国の調査では風化防止の作用が不十分だったなどと報告されたが、「風化の状況をちゃんと見ていれば、娘はこんな事故に遭わずに済んだのでは。他の場所でも、現状を調べられていない状態では、いつ同じ被害が起きるか分からない」と危機感を抱く。
昨年6月にはマンションの区分所有者らに損害賠償を請求、所有者や管理会社側を過失致死と業務上過失致死の容疑で県警に刑事告訴した。「なぜ事故が起き、どこに責任があったかを明らかにし、再発防止につなげたい」との思いだ。
一年の節目に、提訴に踏み切ると決めた。区分所有者らに対し、管理に不備があって事故が起きれば過失がなくても賠償責任を負う「土地工作物責任」を問い、当時の管理人や管理会社側に対しては、安全対策を怠って事故が起きたとし、1億1800万円の損害が生じたと訴える。
「娘は絶対に死にたくなかったはず。なぜこんな死に方をしないといけなかったのか。明らかにして、娘を弔いたい」
◆逗子斜面崩落事故 2020年2月5日午前8時ごろ、逗子市池子2丁目のマンション敷地内にある斜面が崩れ、土砂に巻き込まれて市内在住の県立高校3年の女子生徒=当時(18)=が死亡した。斜面は県指定の土砂災害警戒区域で、マンション管理組合が所有する民有地。遺族は住民らに総額1億1800万円の損害賠償を請求。住民らと管理会社側を過失致死と業務上過失致死の容疑で、県警に刑事告訴している。市が行った応急工事費用など約3750万円は同組合が分割で支払う。本格的な補強工事は国の補助も活用し、近く着工予定。