世界の失言王・森喜朗会長「居直り」で浮き彫りになった「山下JOCの闇」

森喜朗会長の謝罪会見は散々だったが…(代表撮影)

なぜ辞めない? 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(83)は「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などとした自身の女性蔑視とも取れる発言について、4日に謝罪した。一方で会長辞任については頑なに否定。世界中からトップとしての資質を疑われながら、ここまで居直る要因はどこにあるのか。さらには女性蔑視発言の背景を探ると、山下泰裕会長(63)率いる日本オリンピック委員会(JOC)のいびつな「闇」が浮き彫りになった。

「辞めるわけがありません。このぐらいの逆風でへこたれるなら今、あのポジションにいられませんよ」

ある大会組織委員会関係者は、森会長の続投をいとも簡単に予想していた。御年83歳。これまでも数多くの失言やスキャンダルを乗り越え、現在の地位を築いた。人生最後の大仕事と位置づける東京五輪の成功を見届ける前に、自ら引き下がるわけがないという。

しかし今回の女性蔑視発言は、世界中を敵に回すほどの騒ぎになった。各国から選手、関係者、観客が集まる国際総合大会トップが「差別主義者」と認定されてしまえば、選手、関係者のボイコットに発展しかねない。東京五輪成功のためには潔く辞任を選択することが最良の策だったはず。それでも辞任に至らなかった背景には、もはやアンタッチャブルな存在となった森会長の強大な権力があるという。

組織委をよく知る競技団体幹部は「本人がまったく辞任を考えていないのに、誰が森さんに意見できますか。誰もいません。普段だって、失言の度に『余計なことを話して』と思っていても言えないんですよ。それを辞めてくださいなんて、言えるわけがない」。助言できる人間など皆無…とのことだ。

ただ、森会長の存在があってこそ現状の〝東京五輪体制〟があるのも事実。「元総理でどこにも顔が利く。政府や東京都に『こうしてくれ』と言えば、森さんなら通る。IOC(国際オリンピック委員会)の(トーマス)バッハ会長にもモノが言える。あのクラスじゃなければ務まらない。代わりはいないんです」(冒頭の組織委関係者)。謝罪会見での「老害でごみだというなら掃いてもらえばいい」との発言は決して自虐ではなく、絶対に捨てられない自信があるからこそ出たというわけだ。

とはいえ、後からどんな言い訳をしようと、森会長がスポーツ界の女性進出を良しとしないと世界に印象づけたのは事実だ。今回の騒動では日本スポーツ界を引っ張るJOCのいびつさまで露呈している。

森会長は3日のJOC臨時評議員会で山下会長の活躍を持ち上げつつ、女性理事の比率を40%に上げる組織改革に触れ「女性がたくさん入っている理事会というのは時間がかかる。女性は競争意識が強い。誰か一人が手を挙げると、自分もやらなきゃいけないと思うのだろう。それでみんな発言する」と皮肉った。古巣の日本ラグビー協会を例に挙げたが、話を聞かせている相手はJOC関係者だ。女性理事は自分に対する嫌味としか聞こえないだろう。

これにも深い〝闇〟がある。JOC理事会の実情について、ある理事は「森さんの言っていることは、ある意味では本当」と指摘。「女性しか発言しない。特に山口(香)さん、小谷(実可子)さん、高橋(尚子)さんの3人は非常によく発言する。でも男性はほとんど発言しません」

JOCは2019年から理事会を非公開としたが「時代に逆行している」と批判を浴びた。忌憚のない発言をという山下会長の考えだったにもかかわらず、結局今でも積極的にスポーツ界発展のために発言しているのは現役時代に柔道、アーティスティックスイミング、マラソンで世界のトップにいた女性陣ばかりだという。かたや男性理事たちは上の顔色ばかりをうかがって、事なかれ主義に陥っているとは…。

スポーツ界では陰で「森さんの手下」と呼ばれるほど、山下会長と森会長は蜜月関係にある。森会長としてはJOC内部の実情は当然聞いており、〝3人のオンナ〟に手を焼く弟分に加勢するあまり、つい本音の女性蔑視発言が出た…といったところか。

新型コロナウイルス以上に、東京五輪に大打撃を与えた〝失言王〟の大失態。日本スポーツ界の遅れた考えが、東京五輪をダメにしそうだ。

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