コンパクトSUVの新基準になるか?新型プジョー2008のEVモデルは大注目

プジョーのコンパクトSUVである2008がフルモデルチェンジを行いました。最大の特徴はガソリン車とBEV(以下:ピュアEV)を選べる点です。今回はその中でも注目を集めるピュアEVである「e-2008」をメインに試乗してみました。


先行する新型208に続く戦略的モデル

2020年に日本でもデビューしたBセグメントの5ドアハッチバックモデルである「208」。グローバルでも高く評価され「欧州カー・オブ・ザ・イヤー」の受賞に続き、「2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー」における「インポート・カー・オブ・ザ・イヤー」も受賞しています。

このシリーズに続くのが世界で売れているSUVカテゴリーに属する新型2008なのです。

昨今、大型化するクルマのボディサイズに対して、208や2008が属する「Bセグメント」は取り回しがしやすく、都市部での利用にも適しています。

そして208同様に1.2Lのガソリンターボ車とピュアEV(電気自動車)を同時にラインナップ。プジョーではこれを「パワー・オブ・チョイス」と呼びます。当たり前のことですが、EVは同装備であればガソリン車より車両価格が高くなります。しかし電気代や税制上のサポートを組み合わせることでトータルでのランニングコストの差はかなり縮まることになります。

つまりEVだからと言って特別なことではなく、ライフスタイルに合わせて選択の幅を持たせている、というのがこの「パワー・オブ・チョイス」の狙いのひとつと言えます。

スマホ連携可能な7インチのタッチスクリーンは標準装備。専用のカーナビもオプションで設定されます

本当に扱いやすいボディサイズ

新型2008のボディサイズは全長4,305×全幅1,770×全高1,550mm、小回り性能を表す最小回転半径は5.4m。これだけ見ると実際の取り回しに関してはイメージしづらいかもしれませんが、都市部を中心にこのサイズは非常に有利に働きます。

全長4305×全幅1770×全高1550mm、立体駐車場への入庫ができる点が大きな魅力です

昨今、人気のSUVを中心に全幅は拡大傾向にあることは情報として多く流れています。クルマの扱いやすさは寸法だけではなく、運転席から見た全方位の視界性能にも左右されますが、5ナンバーを除けばやはりこのサイズは魅力的です。

1550mmの全高は都市部にまだまだ多い立体駐車場への入庫を可能にしますが、マンションなどの立体駐車場の場合、全高だけでなく全幅が1900mmまで対応と書いてあっても実際左右均等に空間を空けて駐車するのは結構大変です。右側のタイヤとホイールを擦らないように入庫しようとしたら左側を「ゴリゴリ」と擦ってしまうのは“マンション駐車場あるある”のひとつです。

識別点の少ないe-2008と2008ですが、e-2008はグリルのデザインとカラーがボディと同色になります

その点でも1770mmで全幅を抑えてあるのはまさに日本の環境にミートするものですし、FF車のみの設定でも205mmも確保された最低地上高のおかげでちょっとした段差でクルマの底をヒットする確率も下がります。

そしてシート位置が絶妙にセットされているのでドアを開けてスッとお尻を落とす感じで乗り降りができる点も大きな魅力と言えるでしょう。

フロントシートはGT Line専用の“ダイナミック”を採用。サポート性がより高い構造です

気になるEVの航続距離は

e-2008はガソリンエンジンを搭載する2008に比べて車両重量が330kgも重くなります(GT Line比、パノラミックガラスルーフ装着車の場合)。その理由は車両に搭載されたバッテリーが多くを占めます。

GT Lineのみに設定されるパノラミックガラスルーフは14万円のメーカーオプションです

e-2008の航続距離はJC08モードで385kmとなっていますが、より実際の走行に近いWTLCモードでは331kmとなっています。

これを長いと見るか、短いと見るかはその人のライフスタイルで大きく変わってきます。家の周辺を走る生活の足であれば十分でしょうし、毎週のようにロングドライブに出かける人にとっては物足りないと感じるはずです。

そしてピュアEVの場合は何よりも充電するためのインフラが必要です。

やはり自宅に充電設備があるのが望ましいのですが、昨今は出先における充電インフラも増えて来ました。e-2008の場合、CHAdeMO(チャデモ)という規格に沿った急速充電器を使うと約50分で80%まで充電が可能です。

普通&急速充電口は左側リアフェンダー上部に設置。プラグを差し込みやすい高さにあります

自宅の場合は急速充電器の設置はほぼ不可能なので200Vの普通充電器になりますが、最新のウォールボックスタイプの6kW仕様であれば約9時間で満充電が可能です。またサクッと近所まで出かけるのであれば50kmの走行分を約1.5時間で充電できます。

つまり購入時にはまず自宅に普通充電器が設置できるかの確認、さらに自宅周辺や出かける頻度の高い場所の近くに充電設備があるかどうかを事前にチェックしておく必要があります。

もちろん集合住宅の場合はさらにハードルが高くなりますので前述したインフラの営業時間や料金などもかなりしっかりチェックしないと厳しいと言えます。

それでもピュアEVが欲しくなる理由とは

e-2008に試乗する前にガソリンエンジンを搭載する2008にも試乗しましたが、これもまた捨てがたい走りの良さを体験できました。

このクルマは1.2Lの直3ターボを搭載しているのですが、振動や騒音が非常に少ないのが特徴です。昨今この直3というエンジンはこのセグメントを中心に増えてきていますが、同クラスの国産車と比較してみるとその差は歴然。国産メーカーにもう少し頑張って貰わないと、と思える程、2008のガソリンエンジン車は優れています。

実際、2008とe-2008の車両価格差は130万円も違います。正直、軽自動車1台分に相当する価格差ですから、コスパを考えるとガソリン車はかなり魅力的な選択となります。これは冒頭に書いた5ドアハッチバックの208も同様で最近高騰気味の国産車との価格差やコスパを考えても魅力的と言える内容です。

ではそれでもe-2008を選びたくなるのはその走り味です。

モーター駆動ですから当然と言えば当然ですがまず何よりも「静か」な点です。そしてその加速感がとにかく「滑らか」なのです。クルマ業界ではよくこれらを「上質」という単語に例えることが多いのですが、e-2008は本当に一般道から高速道路まで切れ目無い加速フィーリングを味わうことができます。これを1回体験するとちょっと病みつきになってしまうほどです。

100kW(136ps)、260Nmを発生するモーター。驚くほど滑らかな加速フィーリングが魅力と言えます

また前述したバッテリーによる重量増も高速走行時にはガソリン車よりさらにフラットな乗り味、路面に吸い付くような「ピタッとした」フィーリングを実現しています。別の日に後席に乗ってみたのですが、ここでもその快適性は驚くべきもので、もはやBセグメントのコンパクトSUVの域は超えた、と感じさせるほどでした。

後席にはスライドやリクライニング機構は付きませんが、足元も広く十分な居住性です

面白くなってきたBセグメントSUV

インフラの問題は前述したようにe-2008の購入を考えている人にはとても重要です。余談ですが筆者は某社のPHEV(プラグインハイブリッド車)に乗っていますが、ピュアEVほど神経質にならなくてもやはりEVモードで走る時には充電場所や充電時間のことは気にします。言い換えると日々の生活の中に「プラス何時間(何分)充電する」習慣をつける必要があります。

もしこれらの問題がクリアできなければガソリンエンジンの2008が価格も含めて選択肢として有望となります。

昨今はトヨタ・ヤリスクロスの大ヒットや日産キックス、そしてこの原稿を書いている時にルノーからキャプチャーというガチンコライバルが発売されました。この他にもライバルは増える傾向にありますし、使いやすく、安全装備も充実しているこのBセグメントSUVはマーケットとしても注目株といえるはずです。

© 株式会社マネーフォワード