2500人を看取った在宅医追う映画 死をそのまま映す是非 毛利安孝監督「観る方々に委ねるしかない」

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これまでに2,500人を看取ってきた尼崎の在宅医・長尾和宏の姿を収めたドキュメンタリー映画「けったいな町医者」の公開を前に、監督・撮影・編集の毛利安孝のインタビューが公開された。

公開されたのは、『映画「痛くない死に方」読本』(2月18日発売、ブックマン社、定価1100円+税)に掲載されている、毛利のオフィシャルインタビューの一部。「痛くない死に方」では、長尾をモデルとした在宅医を奥田瑛二が演じている。

「けったいな町医者」は、「好きな物を食べたい」「最期まで自宅で過ごしたい」「痛くない死に方がしたい」といった、患者と家族の想いを守るために”町医者”として全力を尽くす長尾の姿が収めたドキュメンタリー映画。生と死を見つめる内容となっている。

Q.毛利監督は、映画『痛くない死に方』では、助監督としてお仕事されました。

助監督のオファーをいただいた時には、末期がんで命を落とす井上という役で下元史朗さんが出演されるのが決まっているとお聞きしました。……そして宇崎竜童さんにもオファーされていると……『TATTOO〈刺青〉あり』という僕たちがものすごく影響を受けた映画を思い出して、もう震えましたね。『TATTOO〈刺青〉あり』から40年たった男たちの「生き様」をもう一度観れるのだとスタッフというよりはファン的心境でワクワクしました。

Q.『痛くない死に方』を撮り終えたあとで、原作者の長尾和宏先生を追いかけたドキュメンタリー『けったいな町医者』の監督をされています。

当初は短いDVD特典くらいの長さの映像をオファーされましたが、1、2週間で撮るなら、それは「取材」に過ぎないだろうと。いや、この先生、2、3ヵ月追ったらドキュメンタリーとなりうる、これは面白いぞと直感したんです。そこは僕の、作り手側の興味です。
どこまで演出というものが介入して良いのか否か、常々疑問を持っていました。そんな僕なりの答えとして今回の撮影は、とにかく、ただターゲットの背中を追おうと思ったんです。長尾先生が動く3歩後ろをただ追う。先生に何かしてもらう、動いてもらう、準備しておいてそこに入ってもらう、そういう演出や指示を一切排除することを自分にルール付けました。

Q.毛利さんご自身も、長尾先生と一緒にたくさんの死を目撃されましたね。

人の死はフィクションではいくらでも扱えたのですが、本物の死は、やはりショッキングです。ひと様の家の、実際の死を目撃するというのは、本当に重いことです。
長尾先生を撮るということは、先生が見つめる死をも赤裸々に撮るということ。死をそのまま映すということが、この作品にとって是か否かはまだわかりませんが、こうした悩みにぶち当たるのは、作り手の宿命ですから。いいか、悪いか、それは観る方々に委ねるしかないのです。

Q.読者の皆さんへのメッセージをお願いします。

このドキュメンタリーは、長尾和宏というけったいなひとりの医師と、その医師が生きる尼崎の町と人々のある期間を切り取っただけのものです。今この瞬間も長尾先生は胸ポケットに忍ばせた携帯電話で患者とつながっています。そんな一人の医師の日々を通じて、現代医療について、死について、そして生きていくことについて、何かを感じ取ってもらえれば幸いです。

けったいな町医者
2月13日(土)よりシネスイッチ銀座ほかにて公開
配給:渋谷プロダクション
(c)「けったいな町医者」製作委員会

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