【共同通信杯】ゴールドシップが切れ味でライバルを一蹴 ここから始まった規格外の走り

上がり33秒台でディープブリランテを差し切ったゴールドシップ

【松浪大樹のあの日、あの時、あのレース=2012年共同通信杯】

1年以上も前のことですかね。須貝尚介調教師が僕のところに来て「最近は大きいところで活躍できてなかったけど、この世代はちょっと違うと思うから覚えておいて」とポツリ。

もちろん、その世代とは最優秀2歳牝馬となったソダシ、サウジアラビアRCを勝ったステラヴェローチェなど、すでに10頭が勝ち上がりを決めている現3歳世代のこと。ソダシに関しては完全に〝後追い〟になってしまいましたけど、今週の共同通信杯に出走するステラヴェローチェに対する評価は当時から非常に高かった記憶があります。

「バゴ産駒だけど、一般的なバゴのイメージの馬じゃない。ダービーを目指せるだけの能力がありそうだし、POGでもおすすめの一頭になりそうだよ」

トレセンではこのような話が日常的に飛び交っていると思うファンの方もいるかもしれませんが、そのほとんどは取材者である〝コチラ〟から発信して、取材対象者である〝アチラ〟が答えるという図式。

相手側から発信されるパターンはそれほどあるものではなく、須貝調教師なら今回で2度目のことのはず。もちろん、1度目はゴールドシップやジャスタウェイがいた2009年生まれの世代でした。

僕自身はジャスタウェイを指名させてもらったのですが、実際は「どっちも取っておけ」が正解。いや、POGに関して言うのならゴールドシップこそが大正解でしたね(苦笑)。POGを引退し、情報だけを提供する立場になった現在でも少し悔やまれるエピソードです。

そんなゴールドシップの重賞初制覇は2012年の共同通信杯。2着は同年の日本ダービー馬ディープブリランテで3着は2014年の天皇賞(秋)を勝ったスピルバーグですから、えらくハイレベルなGⅢだったのね、と今さらながらに思います。

速い脚がなく、ゆえに高速馬場は不向きと言われ続けたゴールドシップ。それは種牡馬になってからも変わらない認識と思いますが、昨年の阪神JFで出走馬最速の上がり33秒6をマークし、3着に入ったユーバーレーベンはゴールドシップの産駒。

彼がスタリオン入りするとき、須貝調教師が「上がり33秒台でディープブリランテを差し切っているんだからね。その指摘は当てはまらないと思うし、いい産駒を出すと思う」とこの共同通信杯を例に挙げ、反論していたのを思い出すパフォーマンスでした。イメージとは違う顔を持っているかもしれないと考えを改めた次第です。

ちなみに共同通信杯はゴールドシップだけでなく、管理する須貝尚介調教師にとっても初の重賞勝ちとなったレースですが、僕にとっては高級食材の〝クエ〟を食するきっかけとして覚えているレース(笑)。

馬券を儲けたお金で…というのなら自慢話になりますが、実際はごちそうになっただけ。札幌2歳S、ラジオNIKKEI杯2歳Sともに2着と惜敗が続く状況に「どうしても重賞を勝ちたいんですよ」とボヤく須貝調教師に対し、橋口弘次郎調教師が「もし重賞を勝ったのなら、ここにいる全員にフグをおごってくれ。それで重賞を勝てるのなら安いものだろう?」と意味不明の要求をしたのがきっかけでした。で、僕も〝ここにいる全員〟の中にいた。本当にたまたまですけど、それでごちそうにありつけたのですから、本当にラッキーでしたね(笑)。

フグをクエにしてくれたトレーナーの男気に感謝感激した僕と違い、言い出しっぺの橋口調教師は「メシをおごる約束をした俺たちだけでなく、普段からお世話になっている馬場監視員(調教師の先生方が調教を見ているところは本来、馬場監視員の方々の場所なのです)の方々もたくさん招待していただろ? それがうれしかった。いい行いをしたからいいことが返ってくる。これからもまだまだ勝つぞ」。その予言が見事に的中したのは皆さんの知る通りです。

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