<再ブレーク盤>阿部真央『MY INNER CHILD MUSEUM』演歌から洋楽まで幅広くカバー

 2009年にメジャー・デビューした女性シンガーソングライターの初カバー・アルバム。激しさの中に脆さを内包するような歌詞や歌唱で人気を得てきたが、もともと感情に沿えるボーカリストではあるが、ここまで歌える人とは知らなかった。

 本編カバーの8曲は、J-POPからアニソン、演歌、洋楽と実に幅広い選曲で多彩。Siaの『Alive』では、ミトカツユキの繊細なピアノ演奏も相まって、前半の静寂から「I’m alive」の繰り返す絶唱までのドラマ性に感嘆するし、続く『千本桜』では、高速ビートに呑まれずに激しく歌うことで桜が狂い咲きしている情景が思い浮かぶ。やはり言葉を大事にするアーティストなのだとカバーゆえにあらためて理解できる。

 特に、4曲目からの4連発が衝撃的。『奏』で男らしく見守るように歌い上げた後、『You raise me up』で透明感のある高音で包みこむ。続く『もののけ姫』で敬虔な気持ちを乗せたような裏声はあたかも修道女のようだ。そして、未練たっぷりの巻き舌で熱唱する『津軽海峡・冬景色』は、津軽の地吹雪を体験するように猛烈に激しい。笹路正徳が編曲したこの4曲を聴くだけでも、彼女のイメージが大きく変わることだろう。

 ラスト2曲は、自身の人気曲『いつの日も』と『側にいて』の一発録りセルフカバー。前者はピアノ弾き語りで永遠の愛を誓い、後者はアコギ演奏で終わった恋をやるせなく回顧しており、原曲以上に胸に迫る。本作を聴けば、様々な音楽を聴くことは、自分の知らない自分に出逢えるチャンスだとより実感するはず。

(ポニーキャニオン・ 2700円+税)=臼井孝

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