コロナ禍で奔走する新人広報 元鷹選手・西田哲朗氏が裏方転身を決断した感謝の思い

昨季限りで現役引退し球団広報に転身したソフトバンク・西田哲朗氏【写真:福谷佑介】

昨オフで戦力外となり、今年から球団広報に就任した西田哲朗氏

2年連続のリーグ優勝、そして5年連続の日本一を目指す王者ソフトバンク。現在、宮崎市内で春季キャンプを行っており、選手たちはさらなるレベルアップのために必死に汗を流している。

その宮崎キャンプの地で、選手とは別の形で必死に奔走している新人広報がいる。昨季までソフトバンクでプレーし、現役を引退して広報に転身した西田哲朗氏だ。

大阪の関大一高から2009年のドラフト2位で楽天に入団した西田氏。遊撃を中心に内野全てを守れるユーティリティプレーヤーとして2014年にはキャリア最多となる131試合に出場。2017年のオフにトレードでソフトバンクへ加入し、貴重なバイプレーヤーとして3年間プレーしたが、昨オフに戦力外となった。

なぜ西田氏は現役を退き、広報への転身を決めたのだろうか。

「1番は球団の力になりたい、一緒にやってきた監督、コーチ、選手の役に立てるようにという思い」

ソフトバンクから戦力外通告を受けたあと、西田氏には様々な、それこそ「オールジャンル」の仕事の打診があったという。「会社員もありましたし、サポートしてもらいつつ自分で仕事をしていったらどうか、とか、色々な選択肢がありました。3週間あらゆる土地に飛んで、色んな話を聞きました。色々な誘いがありましたし、それこそ甘い誘いもありましたね」。進路を決めるまでの3週間、全国各地に飛んで多くの話を聞いた。

野球から離れようという思いもあった。「他の世界に飛び込んでもいい、他の世界を知ってもいいんじゃないかという思いもありましたね。挑戦してみたい、元プロ野球選手としてどこまでできるのか、というのもやってみたかったし、どこまで行けるか示したかったというのもありました」と言う中で、最終的には球団に残ることを決めた。

「1番は球団の力になりたい、という思いでした。自分自身がどこでお世話になったかとかを考え、両親から『球団からせっかくの話をいただいているんだから』という話もありました。一緒にやってきた監督、コーチ、選手がいるっていうことで、力をつけて役に立てるようにという思いで引き受けました」。お世話になった球団に恩返しをしたい、ともに戦ってきた仲間たちのために働きたい、その思いで打診を受けた。

広報に就任する前には、自分なりに準備を行った。「短い期間でしたけど、広報とはどんな仕事か勉強しながら日々過ごしてきました」。広報とはいかなる仕事か、本を読んで理解を深め、他球団の広報にも話を聞きにいった。「仕事の内容を知らずに引き受けるのはよくない」とも考え、決断の前にはホークスの広報チームにミーティングをお願いし、仕事の内容を説明してもらった。

広報1年生としてキャンプで奮闘する西田哲朗氏【写真:福谷佑介】

「選手の頑張っている姿、どういう気持ちで練習をやっているか、選手はこれだけ凄いんだぞというのを多くの人に知ってほしい」

実際に業務をスタートさせたのは1月になってから。選手の新人自主トレ公開などに対応し、今はキャンプの真っ最中だ。初めて“外側”から見るキャンプ。「選手の凄さを改めて感じていますね。アーリーワークで朝イチから選手はよく頑張っているな、という気持ちが強いです。自分でもよくこんな練習をやっていたなという気持ちになります」。昨季までは自分もその中にいたのだが、いざ離れてみると、選手の凄さをひしひしと感じるという。

だからこそ、より一層、広報という仕事に熱がこもる。「こういう選手の頑張っている姿、どういう気持ちで練習をやっているか、選手はこれだけ凄いんだぞというのを多くの人に知ってほしいという気持ちが強いです」。コロナ禍でのキャンプのため、報道陣は例年のように自由に選手らに話を聞くことは許されていない。取材を制限する中でも、できるだけ多くの選手を取材してもらい、メディアに露出してもらえるように、と西田広報は考えを巡らせる。

「選手として先輩後輩とも一緒にプレーしていたので、性格なども十分理解はできた上で調整ができるので、選手の気持ちも考えながら取材を極力入れるようにしているんですが、難しさはあります。ただ、コロナ禍でお客さんが入らない中で、いかにファンの方に選手の情報を伝えるかというと、メディアの方々を通じてしかできません。メディアの方々にも感染対策を考え、制限をかける中でやってもらっていて非常にありがたいな、と思っています。選手の方にもメディアの方にも頑張ってもらっています」

全期間で無観客開催が決まった今年の春季キャンプ。必死に汗を流す選手たちとともに、少しでも情報をファンに届けられるようにと、新人広報の西田氏も必死に奮闘している。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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