ウイグル人弾圧「親が収容施設に」 在日留学生、仕送り途絶え困窮

 ウイグル人というだけで理由も示されないまま拘束される―。中国政府が新疆ウイグル自治区で行っている人権弾圧。米国は1月、現地で100万人以上のウイグル人が拘束され、中国政府によるジェノサイド(民族大量虐殺)が行われたと認定した。日本国内でも、親が収容施設に送られ仕送りが途絶えたため、ウイグル人の留学生が困窮している。海外まで波及する弾圧の深刻さが浮き彫りになった。(共同通信=上松亮介)

大学生のウイグル人女性は取材を受けている間も時折、ノートに目を通していた。毎日、故郷に残した家族のことが頭をよぎるという=2020年11月

 ▽今日は大丈夫だろうか

 「本当にお金がなかった」。関西圏で暮らす大学生の20代女性は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、コンビニのアルバイトを休まざるを得なかった昨年を振り返った。知り合いの在日ウイグル人らの援助10万円と学生支援団体からの奨学金20万円で生活の見通しは立ったが、実家からの送金は2018年11月から止まったままだ。

 イスラム教の聖典コーランを住民に教えていた叔父は15年に拘束されたまま消息が分からない。信仰があつい家に生まれたが、強まる弾圧に海外での就職を意識するように。先に日本へ留学していた友人から「自由で暮らしやすい」と聞き、16年秋に渡航した。

 家族との唯一の連絡手段である中国の通信アプリ「微信(ウィーチャット)」で母親とメッセージのやりとりをするが、電話は控えており、もう2年以上も声を聞いていないという。「毎朝、目が覚めると、今日は大丈夫だろうかと。メッセージがあってもなくても心配なんです」

 ▽自責の念

 関西圏の専門学校に通う20代男性は18年2月ごろから母親と連絡が取れなくなり、同時に送金が止まった。ほどなくして、母親が当局に拘束されたことを家族から聞いたという。

 父親は中央アジアや中東への輸出入に携わっており、比較的裕福な暮らしを送っていたが、父親も収容施設に。男性は消え入るような声で「自分が海外にいるから、両親は捕まったのかもしれない」と自分を責める。

 留学生が「資格外活動」として働けるのは週28時間以内と定められている。男性は深夜に倉庫で物品を仕分けるアルバイトで生計を立てるが、食費を抑え、年間約70万円の専門学校の授業料を納めながらの生活は苦しい。

 帰国をあきらめ、このまま日本で働こうと考えているが、留学生にとって就職は簡単ではない。「留学ビザが切れても、日本政府は中国に送還せず合法的に滞在できるよう何とかしてもらえないだろうか。ウイグル人の状況を考慮してほしい」と訴えた。

閉業時間を迎えた商業施設にたたずむウイグル人男性。「僕が海外にいることで、家族がもし捕まったら…。最近、なぜか申し訳ない気持ちになるんです」=2020年11月

 ▽入学辞退

 兵庫県在住の20代男性はロボット技術を学ぶため17年秋に来日し、すぐに広島県内の大学に合格。だが、実家からの送金が止まり約80万円の授業料を納められず、入学を辞退せざるを得なかった。

 海外送金は拘束理由の一つとして指摘される。ウィーチャットで連絡してきた母親は監視を恐れてか「こちらでは問題が起きている。分かるよね」とだけ話し、送金が難しい状況を暗に伝えたという。関係者によると、中国国外のウイグル人は現地に残した家族と連絡する際、隠語を使うなどして状況を確認している。

 ファストフード店でアルバイトしながら専門学校に通い、今春卒業の予定。一方で大学進学をあきらめられず、この冬に知人から受験料を借りて再び受験に臨んでいる。合格しても入学金などのめどは立っていないが、来日当初に得た留学ビザの期限が3月末に迫り、焦りを募らせる。「どこかに合格しないと、日本を出て難民になるしかない。もう後がない」

 ▽取材を終えて

 「どこで誰が監視しているか分からない。ふとそう感じてしまうんです」。インタビュー中、大学生の20代女性は不安な心の内を明かした。以前通った日本語学校のクラスでは中国人留学生が大半を占め、本当は流ちょうだが、中国語を話せないふりをし、彼らを避けたという。

 取材当日、複数のウイグル人留学生に集まってもらう予定だったが、急きょ数人がキャンセルに。仲介してくれた在日ウイグル人の30代男性は「これが現状です。ウイグル人同士でも完全に信じ切れず、皆もし自分が話したことが当局に知れたら、と考えてしまうんです」。日本にまで及ぶ監視に対する恐怖が、まだまだ多くのウイグル人の口をふさいでいることを実感した。

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