「人を遺すは上」 楽天・田中将大がノムさんの人生訓を実践する若手指導

楽天・則本昂大と会話する田中将大【写真:荒川祐史】

「聞いてくれば何でも教える」スタンスで後輩に助言を送る

楽天に8年ぶりに復帰した田中将大投手はプロ1年目の2007年から3年間薫陶を受けた元監督、野村克也さんの一周忌の11日に「プロの世界で生きていくための基礎を全て教えていただいた。(亡くなったことが)まだ信じられない気持ちです」と述懐した。

野村さんが講演などで頻繁に引用した言葉に「財を遺すは下、仕事を遺すは中、人を遺すは上」がある。利益を生むことよりも、事業を発展させることよりも、人材を育てて次代につなげることこそ最も価値が高いという意味だ。実際、現在NPB12球団の監督のうち半数の6人(楽天・石井、ヤクルト・高津、阪神・矢野、中日・与田、日本ハム・栗山、西武・辻の各監督)が現役時代に野村さんの指導を受けたことがある“教え子”。見事に人材を球界に残している。

その「人を遺すは上」を地で行っているように見えるのが沖縄・金武キャンプでの田中将だ。キャンプ合流初日の今月6日、ナインに向かって「7年間アメリカで野球をやってきて、色々経験してきたこともあるので気軽に聞いて下さい」とあいさつ。それにしてもまさか、現役バリバリのマー君がここまで広く、熱心に後輩たちへ助言を送るとは……。

「こちらから押し付けることはしないが、聞いてくれれば何でも答える」との方針で、これまでに報道陣から見える範囲だけでも則本昂、森原、酒居、引地らに身振り手振りを交え、時には自らボールを握って見せながら丁寧に教えていた。

ブルペンの背後から同僚の投球に熱視線

ノムさんの命日のこの日、自身はピッチングを行わず、キャッチボール、ダッシュなどで軽く汗を流して終えたが、その後ブルペンの捕手の背後に陣取り、同僚のピッチングに視線を送った。「見たことがない投手もいたので、どういう球を投げるんやろ、どういう風に投げるんやろ、と興味本位で見ました」と言いつつ、「アドバイスを求められた時、どういう風に投げているかわからないと答えようがないので」とも明かした。質問を受けることを想定し、あらかじめ全ての投手のピッチングに気を配っているのだ。

一方で「自分に生かせそうな所があれば、生かしたいと思っています」と付け加えた。惜しげもなく自分の技術を伝えるスケールの大きさもさることながら、実績のない若手の投球からも何かヒントを得ようとする貪欲さに驚かされる。

「野村さんから教わったことは本当にいろいろありますが、特に投球に関しては“原点能力”。『いつでも打者の外角低めに投げられるように練習しておけ』と言われました。『投球は力ではない。バランスだ。コントロールが大事だ』とも。自分は最初、力任せに投げていた部分があって、バランスとコントロールを意識して投げるようになってから良くなった実感がありました」と振り返る。ノムさん亡き今、楽天の後輩にその理論を伝承していくのも自分の使命の1つと考えているようだ。

「投球に関して聞かれたことにはできる限り答えたい。チームの力が上がるなら、それに越したことはないですし、チームのために今後も僕にできることがあればと思います」。そんなマー君の立ち居振る舞いに、ノムさんの面影が重なって見える。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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