メクル第523号 パントマイムアーティスト・ケッチさん 言葉の壁こえ、笑顔届ける

パントマイムアーティスト・ケッチさん

 目の前に透明(とうめい)な壁(かべ)があるように表現(ひょうげん)したり、かばんが空中に止まったように見せたり-。体の動きだけでいろんなものを表現するパントマイムを武器(ぶき)に、パフォーマンスコンビ「が~まるちょば」として世界中で活躍(かつやく)してきたケッチさん。昨年、雲仙(うんぜん)市千々石(ちぢわ)町に7カ月暮(く)らしていました。言葉の壁をこえてみんなを笑顔にしてきたケッチさんに、仕事への思いなどを聞きました。

 ケッチさんがパントマイムに出合ったのは小学生のころ。テレビ番組で歌手の沢田研二(さわだけんじ)さんがやっていたのがきっかけでした。動きが不思議でおもしろく、学校でまねをして友達を笑わせていました。高校の文化祭でも披露(ひろう)して、いろんな人に褒(ほ)められ、これを仕事にしようと決めました。
 大学に行きながらパントマイムの養成所にも通いました。英語も勉強して、卒業後は外国のイベントや大会に出場したり、路上で芸を披露したりしていました。1999年、HIRO(ヒロ)-PON(ポン)さんと「が~まるちょば」を結成。2人のステージは世界中の人々を魅了(みりょう)しました。「言葉も文化もみんな違(ちが)うけれど、笑うことが好きってことは世界共通」と感じました。
 2019年、1人でいろんなことに挑戦(ちょうせん)しようと、が~まるちょばを脱退(だったい)。世界を旅しながら芸を磨(みが)く日々を送っていました。しかし、新型コロナウイルスの感染(かんせん)が拡大(かくだい)して海外で活動ができなくなりました。やむを得ず帰国し、20年4月から約7カ月間、妻(つま)の実家がある雲仙市千々石町で暮らしました。
 世界を飛び回っていたケッチさんにとって、同町での暮らしは新鮮(しんせん)そのものでした。海あり山ありの豊(ゆた)かな自然の中、米作りも初めて経験(けいけん)。「野菜やお米がとてもおいしかった」と笑います。
 しかし、気になることもありました。田舎(いなか)は子どもが減(へ)って、学校も少なくなっています。自分にできることはないかと考え、新しい夢(ゆめ)が生まれました。それは「閉校(へいこう)した学校にパントマイムの養成所を作る」こと。そうすれば田舎に若(わか)い人が集まるし、養成所でいろんなイベントをすれば、町がにぎやかになります。
 昨年11月から福岡で活動していますが、コロナでイベントは少ないまま。こんなときだからこそ、笑いを届(とど)ける仕事の大切さを感じています。「笑顔でいよう!」。みんなを励(はげ)ますケッチさんからのメッセージは、自らに言い聞かせる言葉でもありました。

【Q&A】楽しむことが大切
●好きな食べ物は?
 千々石町で暮らして、新鮮(しんせん)な刺(さ)し身を柚(ゆず)ごしょうと甘(あま)めのしょうゆで食べるのが好きになりました。
●パントマイムがうまくなるにはどうしたらいいの?
 まずはエスカレーターのまねから始めるのがいいかも。背筋(せすじ)をまっすぐに、歩いていることを感じさせないように動くこと。友達と見せ合いながら、一緒(いっしょ)にやりましょう。とにかく楽しむことが大切です。
●いろんな国を回ったそうですが、一番好きな国はどこ?
 ニュージーランドは温かい人が多かったです。コロナ禍(か)でのアーダン首相(しゅしょう)の立ち居(い)振(ふ)る舞(ま)いを見て「こういう人を選ぶ国はやっぱりすごい」と、もっと好きになりました。
●世の中で一番怖(こわ)いものは?
 妻(つま)…。読まれたら怖いので言えません(笑)。

 【プロフィル】静岡県出身、本名と年齢(ねんれい)は非公表(ひこうひょう)。中央大在学(ざいがく)中にパントマイムを学ぶ。「が~まるちょば」とは、ジョージア語で「こんにちは」の意味。これまでに訪(おとず)れた国は54カ国。現在(げんざい)、福岡を拠点(きょてん)にイベント出演(しゅつえん)やワークショップの講師(こうし)などを続ける。

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