小値賀への移住増加 人口2000人の島に魅力 地域住民と自然に囲まれ子育て

海辺を散歩する平岡さん親子

 五島列島北部にある北松小値賀町。長年歯止めが掛からない人口減少に悩んできたが、ここ数年は各種施策の成果が出始め、2020年は4年ぶりに転入が転出を上回る「社会増」を実現した。人口2千人あまりの島のどこに魅力があるのか。首都圏からの移住者を取材した。

◆平岡健さん(30) 16年に神奈川から

 神奈川県相模原市出身の平岡健(たける)さん(30)は2016年3月に小値賀町に移住した。妻は大学時代のサークルの同級生で、地域おこし協力隊員として先に同町で活動していた道呼(みちこ)さん(30)。約3年半後に長男の航弥(こうや)ちゃん(1)が生まれ、地域住民に囲まれて子育てを楽しんでいる。
 健さんは小中学生の時にボーイスカウトとして活動するなど自然との触れ合いが大好きだった。山梨県内の大学に進学すると、小学生にキャンプやハイキングを体験してもらうサークルに入り、そこで道呼さんと出会った。
 大学卒業後は地元の相模原市の保育園に勤務。小値賀町の協力隊員になった道呼さんのもとを年1回ほどのペースで訪れ、遠距離恋愛を続けた。健さんはいずれは相模原で道呼さんと暮らしたいと思っていた。だが子どもたちに島の豊かな自然を再認識してもらおうと環境教育に取り組む道呼さんの意志を尊重し、同町への移住を決めた。
 当初は食料品の物価の高さを心配したが、近所の人から野菜などをお裾分けしてもらい経済的に助かっているという。現在は運送会社で働き、消防団にも所属し交流を深めている。
 一方、道呼さんは対馬市で生まれ、長崎市とその近郊で育った。キャンプや野外活動が好きで、大学4年の冬、ゼミの教授の紹介で小値賀町を訪問。名所でもない小さな入江さえ透明度が高くて魚も豊富。そうした自然環境が気に入り、13年に移住した。
 協力隊員を3年務め、世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」構成資産の野崎島でのガイド補助などを担当。現在は町職員として、放課後に小学生が勉強や遊びをして過ごす「子ども教室」でスタッフの日程や学校との連絡調整を担っている。
 航弥ちゃんは豊かな自然と多様な世代の人々に囲まれてすくすくと育ち、健さんは「感受性やコミュニケーション力が育つ」と期待する。
 一方で医療体制など心配な面もある。町内には診療所が1カ所しかない。専門医に病状を相談して回答をもらうスマートフォンのアプリを活用するなど早めの対応を心掛けている。成長の過程でスポーツに興味を示せば体験させたいが、子どもの数が少ないため選択肢が限られる。
 子育て世代の20~40代は働き盛りでもある。健さんはこの世代に移住してもらうためには「子どもが自立するまで安定して働ける雇用の場の確保が重要」と指摘する。「町は島の生活を安定させるため移住を促進していると思うので、地元業者の島外向けの求人に町がもっと力を入れても良いのではないか」と提案する。


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