【サウジC】チュウワウィザードが“天敵”クリソベリル超えでつかんだ勝利への戦略

入念に調整を重ねてきたチュウワウィザード。大枚ゲットなるか

2021年のJRA・GⅠは今週末の第38回フェブラリーS(21日=東京競馬場・ダート1600メートル)で開幕する。ダート日本一を決める戦いだが、一方、地球の裏側の中東サウジアラビアでは1着賞金1000万米ドル(約10億5000万円)を争う世界最高賞金レース・第2回サウジカップ(20日=キングアブドゥルアジーズ競馬場・ダート1800メートル、馬券発売なし)が行われ、昨年のJRA賞最優秀ダート馬チュウワウィザードが参戦する。ダートの世界頂上戦に敢然と乗り込む日本陣営の勝算はいかに…。

話は昨年11月にさかのぼる。3着に敗れた6月の帝王賞に続いて、チュウワウィザードは最大のライバル・クリソベリルとJBCクラシックで激突した。必勝を期して臨んだ大久保調教師と鞍上ルメールは、直前の雨で軽くなった馬場状態を考慮して急きょ作戦を変更。先行策を選択する。ハナはダノンファラオに譲ったものの、その外をぴったりとマークしたまま4コーナーを通過したまでは良かったのだが…。直線でダノンファラオをかわしに動いた瞬間、川田=クリソベリルは待ってました、とばかりに追い出しを開始。一気に抜き去られ、最後は大外から脚を伸ばしたオメガパフュームにも先着を許して3着敗戦となった。

大久保調教師は「2頭のいい目標にされました」と先行策を悔やんだが、今から思えばこの敗戦が次走のGⅠ戴冠につながる大きな教訓となる。

昨暮れのチャンピオンズC前まで17戦して<9341>。馬券圏外は一昨年・GⅠチャンピオンズCの4着のみ。ダートの中・長距離路線で崩れることなくキャリアを積み重ねてきたチュウワウィザードを、大久保調教師は「競馬センスがいい馬」と評する。

確かに重賞勝ちの5戦は距離1900メートルから2500メートル。コース形態、回りの左右や中央・地方を問わない対応力には驚かされる。まさに高い競馬センスのなせる業だが、国内ダート最高峰・チャンピオンズC王者という果実を手中にするには、それまで3戦3敗、前述のJBCクラシックではその差を4馬身半まで広げられたクリソベリルという高い壁を越えなければならない。大久保調教師が考え抜いた勝利への最善手、それは“天敵徹底マーク”だった。

「目標にされるよりも、相手を定めてマークするほうがこの馬の持ち味を最大限に生かせると考えました。たとえ1着になれなくとも、クリソベリルだけは負かしにいくつもりでレースに臨みました」

指揮官は当時をこう振り返る。その鬼気迫るような執念が乗り移ったかのように、戸崎圭=チュウワウィザードは常に前の“天敵”を射程圏に入れてレースを運ぶ。そして敵を見事に沈めた(4着)だけでなく、念願のJRA・GⅠタイトルを手中に収めた。

「5歳秋ごろに本格化の時を迎えそうな成長曲線を描いていましたが、チャンピオンズCの時は本当に馬の状態が良かったですから」と同師。過去最高の状態と理にかなった戦略、そして指揮官の執念、この3つが最高の形で融合した結果だ。

初の海外挑戦となるサウジCの強敵は米国のシャーラタン、ニックスゴー(※注)など超強力な先行勢だが、レースに臨む指揮官の基本戦略は変わらない。「米国勢はどんどん行くからね。ペースメーカーにはならないように、目標を定めて、という形でしょう。初めての相手だし、どんなペースになるかは分からないけど、ウィザードなら対応してくれるはず」

昨年のドバイ遠征は直前の開催中止でカラ輸送に終わったが「いい予行演習になりましたね。ドバイでもいい状態をキープできていたので、今回に関しても不安はないですね」と同師。

9日に栗東トレセンで国内最終追い切りを終え、13日は決戦の地に到着したチュウワウィザード。大久保調教師は「ここまで順調に調整できています。一昨年のJBCクラシックを勝ったあたりからずっといい状態を維持してくれています。今回は相手がさらに強くなりますが、世界レベルが相手でも楽しみはある、と期待しています」。

大一番は刻一刻と迫っている。優勝賞金は史上最高の1000万米ドルだが、陣営は同馬の力を出し切ることに注力するだけ。その次には3・27ドバイワールドカップ(メイダン競馬場・ダート2000メートル)も控えている。新型コロナウイルス禍で世界が激動する中でも、ホースマンは屈しない。昨年のJRA賞最優秀ダート馬が日本の看板を背負ってのワールドツアー――。その結果が今から待ち遠しい。

※注 米国のシャーラタン(牡4)は4戦3勝だが、すべて1位入線。2走前のGⅠアーカンソーダービーは6馬身差で1位入線も、のちの検査で禁止薬物が検出され、9着に降着になった。現在、様々なブックメーカーで1番人気。ニックスゴー(牡5)は18戦6勝。ただ目下絶好調でブリーダーズカップマイル、ペガサスワールドカップのGⅠ2連勝を含む4連勝中。

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