連載③ 流通最前線「郊外型ショッピングセンターやネット通販に顧客を奪われる百貨店の苦境」

2020年3月に長い歴史の幕を降ろした老舗百貨店新潟三越

百貨店が苦境に置かれている。年々郊外型ショッピングセンター(SC)に顧客を奪われ百貨店と運命共同体だったアパレルメーカーも「自立」し、最近ではネット通販にシフトしている。そこにコロナ禍が追い打ちをかける。百貨店は四面楚歌の現状を打開できるのだろうか──。

今から10年以上も前の話で恐縮だが、ある大手百貨店が、スーパー大手が運営するSCに出店した時のこと。ある大手百貨店の経営幹部が記者にこう話したことがある。「SCを運営する大手スーパーのデベロッパー会社から、百貨店さんは看板だけ持ってきてくれればいい。お客はうちが引っ張ってきますから、と言われた」。その言葉を鵜呑みにする大手百貨店もSCという業態の特性をよく理解しないで出店したとしか思えなかったが、結局、この大手百貨店は大手スーパー系のSCから短期間で徹退した。

百貨店が現在のような苦境に陥ったのは、この百貨店幹部の言葉に集約されているといえるのではないだろうか。

相当以前から百貨店の売り場はアパレルメーカーの委託販売(売れた分だけ百貨店がアパレルメーカーから買い取り、売れ残ったらアパレルメーカーが引き取る)という商慣習の売り場で埋め尽くされており、そこには百貨店側の意思がまったく働かない構造になっていた。百貨店は長くこの委託販売方式で売れた分だけアパレルメーカーから引き取るという体制が出来上がっており「見事なまでにリスクをとらない経営だった」(アパレルメーカー幹部)という。

大手スーパーSCへの大手百貨店の出店に際しても、この「乗り」であなた任せで出店し退店。百貨店自らが売るという意識が欠如していたとしか思えない出来事だった。そうした構造が百貨店業界全体にしみついていることに危機感を抱き、かねて百貨店でもアパレルメーカー依存からの脱却が叫ばれている。

一時、百貨店自らがアパレルなどのモノ作りを始めたり、自社運営の売り場作りを始めた。しかし結局、百貨店独自の商品開発も中途半端に終わり、いまだかつて実現できていない。そうした中でコロナ禍の突入である。もちろん、百貨店も手をこまぬいているわけでもない。リモート販売を展開する百貨店も散見されたりしているが、焼け石に水。苦境を打破する打ち手がないのが現状である。

百貨店の苦境にコロナ禍が追い討ちをかける

日本百貨店協会が発表する百貨店の売上高は新型コロナウイルスの感染が拡大した昨年の2、3月頃から売上高の落ち込みが加速、20年12月まで15か月連続で前年同月比マイナスという不名誉な記録が更新されている。

しかもコロナの終息には後、2、3年は必要という調査もある。しばらく、百貨店はコロナと付き合わないといけないようだが、現状を打開する方策はあるのか。大手百貨店のなかには、かつて欧米のラグジュアリーブランドを導入してステータスを高めたことがある。だが、こうしたコロナ禍ではその逆バージョン。いわば低価格の専門店を導入すればいいという見方もある。「すでに地方の百貨店にユニクロやニトリが導入されているのは当たり前だから、その拡大版。集客力のある低価格路線を展開する有力専門店を導入したらどうだろうか」(あるスーパーのOB)という指摘も聞かれるようになった。

「例えばワークマンプラスやワークマン女子を誘致するなど今流行っている業態を導入し、それを核に売り場を再編するというのも手ではないか」(同)という声。実現は極めて厳しそうだが、いつまでも百貨店としてステータスにこだわっていられないということだろうか。

流通ジャーナリスト 青山隆
流通専門誌、大手新聞社記者を経て、流通ジャーナリストとして活動中。青山隆はペンネーム。

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