乙武洋匡氏が分析「プロレスラー・今井礼夢〝公開処刑〟」はかわいそうなのか

取材に応じた乙武洋匡氏

東スポWebで先月報じた「今井議員の長男・礼夢デビュー2戦目で〝公開処刑〟の屈辱」という記事のコメント欄が、「かわいそう」「これがプロレス」という意見で二分される騒ぎになった。昨年12月にプロレスデビューした礼夢(16)は、自民党の今井絵理子議員(37)の長男で、先天性難聴という障害を抱えている。障害者アスリートゆえの論争だが、東京五輪・パラリンピックを控える日本人の障害者への理解レベルは? 作家・乙武洋匡氏(44)に話を聞いた。

礼夢は、先月31日にデビュー2戦目を行ったが、試合に敗れたうえ、対戦相手からリンチを受ける〝公開処刑〟の屈辱を味わった。この試合の模様を東スポWEBで報じたところ、コメント欄に賛否両論が渦巻いたのだ。

――コメント欄が二分された

乙武氏 東京五輪のテーマの1つが「調和と多様性」。日本社会では分断されがちだった健常者と障害者の垣根をどう調和させていくのか。1つの試金石になるのが、パラアスリートを批判できるのかという点だった。パラアスリートが期待に応えられなかった時に容赦なくメディアや国民が叩けるか。おそらく無理なんだろうなと思っていた。それが礼夢選手の記事とリンクした。聴覚障害という看板を掲げてしまっているからこそ「かわいそう」とか「公開処刑というのない」という意見が寄せられた。つまり、障害という看板をかけられているということによってかわいそうな存在、批判してはいけない存在である。バイアスがかかってしまって逆にフラットな記事に対する批判につながったと感じました。

――パラリンピックを控えるが、世界と比べて障害に対する日本の理解度は

乙武氏 物理的なバリアフリーという意味では東京は世界トップクラス。ロンドンよりも圧倒的に進んでいる。にもかかわらず東京では、街を歩いて車イスの方とすれ違う機会って1日に1人見ればいい方。ところがロンドンでは2~3ブロック歩くたびに1人ぐらいのペース。エレベーターがない駅と分かっていてもそこを利用する。なぜなら、行けば誰かが手伝ってくれる、車イスを担いでくれる。

――日本は相当遅れている?

乙武氏 ただ、日本人が冷たいとか意地悪ということではない。長らく分離教育といって、障害者と健常者を分けて教育を続けてきた。障害者とともに生活する経験を持つ人が少ない。なので障害者と接した時に戸惑ってしまう。何をしていいか分からない。

――ロンドン五輪ではパラリンピックのチケットが完売

乙武氏 パラリンピックの最高責任者に話を聞きました。これまでは感動ストーリーで売りがちだったのを、純粋にスポーツとしてこんなにも魅力的でスリリングなものなんだとイメージ戦略に変えたと言っていた。NHKはロンドンに似たアプローチで、いかに競技として面白いか熱心にやっている印象。民放はどうしても感動ヒストリーという扱い方が多く「24時間テレビ」のような手法から脱し切れていない印象を受けます。

――森喜朗氏の女性蔑視発言が問題となった

乙武氏 「差別なんかしたことがない」って言ってる人ほど無意識に差別に加担してしまっているケースというのは、往々にしてある。自分も気づかないうちに差別意識を持っていたり、なにかの差別に加担しているかもしれない。自らの無知や偏見に常に関心の目を向けていく姿勢こそ問われていると思います。

――組織委員会について思うことは

乙武氏 性別に限らずさまざまな属性の方をステークホルダーに向かい入れることが本来必要な姿勢だと思います。気を付けたいのは、高齢男性の批判につながってはいけない。ただし高齢男性だけという、偏った属性だけで組織を固めるのもよくない。なるべく多様な属性の方を包摂していくことが必要なのかなと思っています。

© 株式会社東京スポーツ新聞社