【コロナワクチン接種体制_薬剤師の準備は】東住吉区薬剤師会は少ない情報の中でどうやって希釈手技講習会実現まで至ったのか?

【2021.02.17配信】2月14日、国内初となるファイザーのコロナワクチンが承認され、接種体制整備が急ピッチで進んでいる。承認によって詳しい情報が提供されたことで、対患者への説明のための情報入手には安堵する声が薬剤師の中からは聞こえる。一方で、承認前の暗中模索の中で、すでにファイザーワクチンで必要になる希釈手技の講習会開催を決めている薬剤師会がある。大阪市の東住吉区薬剤師会だ。同会はどのようにして講習会実現までに至ったのか。そこには、コロナ禍以前からの病院薬剤部や訪問看護師との連携体制など、いくつかのキーワードがあった。

2月27日、東住吉区薬剤師会はコロナワクチン接種協力へ向けた講習会を実施する。

ファイザーのワクチンは冷凍されているため、解凍したあとで生理食塩液希釈し、接種用のシリンジに吸い上げるという作業が必要になる。接種には医師や看護師が関わることになるが、人員が不足することが危惧されており、薬剤師もこの希釈作業などでの貢献を求められる可能性がある。

そこで、同会では、この手技に焦点を当てた講習会を行う。

在宅医療などにおいて薬剤師は、無菌ルームでの抗がん剤や輸液の調製などに携わることがあるが、今回のコロナワクチンでは独自の動作が必要となるため、一連の動作を習得しておこうとの考えだ。もちろん、講習では実物のファイザーのワクチンではなく、模擬的な注射剤を用いる。

こうした希釈作業が必要であることの情報は出ていたが、情報が不明瞭であることなどから、講習会実施に踏み切る動きは、現状では少ない。

なぜ、同会では実施を決めたのか。

同会会長の石田琢磨氏は、「会内で情報を集めて講習会実施へ向けた軸をつくってくれたスタッフがいました。そうであるなら、やらないという選択肢はなかったと感じています。区内の状況は大雑把には把握しています。それを考えると、薬剤師の参画が必要になるだろうという感覚的な判断も働きました。第4波などで患者数が増える可能性も否定できない。状況によっては医師や看護師の方々が感染した患者対応に追われる可能性も考慮すると、薬剤師がワクチン接種体制においても、一定貢献できる体制を整えておく必要はあるでしょう、と考えたわけです」と語る。

加えて、多職種からの積極的な協力が得られたことも背景にある。

「講習会にあたっては、実際の手技に慣れている病院薬剤師の方の協力なしには、薬局の薬剤師だけで進めるというのは不可能だろうなと思いました。そこで、普段から連携させていただいていた病院薬剤部の方や訪問看護師の方々に相談しましたところ、ほぼ即答で協力いただけるというお答えをいただけました。講習会実現には、こうした多職種の方々との普段からの連携があったことが大きかったと思います。そして、この連携は、当会においては前回の診療報酬改定で抗がん剤を介した連携等が重視される傾向になったことで、より深くなっていたことも事実だと思います」(石田会長)。

実際に講習会では2名の看護師が講師として協力してくれることになっている。

講習会実施に向けては同会の執行部数名で病院に赴き、打ち合わせの中で実際に手技のレクチャーを受けるなど準備を進めた。

石田会長が「講習の軸をつくってくれた」と話したのが、同会副会長の一人である竹内由香里氏だ。

竹内氏は、SNS上で、宇都宮市薬剤師会主導での希釈手技講習会があったとの情報に触れる。

「どのようなものなのだろう」――。

竹内氏はさっそくワクチンの希釈手技などに関して情報を調べ、まとめ始める。

「承認前だったこともあり、率直に申し上げると、スムーズに情報が入手できたわけではありません。市や府の方々自体も情報が不明瞭、少ない中でしたが、メーカーや厚生労働省のホームページで開示されている内容等調べていくことで、講習会に必要な情報は入手できました」と振り返る。

ネットに情報はあっても、“担当者不在”のような中での情報収集は困難を極めたはずだ。

それでも、「薬剤師の性質的に、情報を調べてまとめるという作業は向いているんですよ」と竹内氏は笑う。

「20名ぐらい来てくれればいいかな」(竹内氏)と当初思っていた2月27日の講習会には、申し込み開始後5日で定員上限に達し、申し込み締め切りまでには70名近くに膨れ上がる状況となった。それだけ、このコロナ禍のワクチン接種において、「何かしなくては」という思いを抱いていた薬剤師が多かったということではないだろうか。

「講習に行って、老眼などの理由からやっぱり難しそうだなとなるかもしれない」という60歳代の薬剤師から相談もあったという。石田会長は「もし最終的にそういった判断になるのもよいと思っています。まずは講習だけでも受けてみてください、と回答しました」と説明する。

竹内氏は講習会実現まで準備してきた理由について、「地域の薬局薬剤師にワクチン接種に係る出動の声が掛かる、それは恐らく事前に告知も何もない状況で急に言われることも予想されるわけで、その時にすぐ動ける薬剤師達を増やしたかったんです」と話す。

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上部団体という位置づけとなる大阪府薬剤師会や日本薬剤師会から“講習マニュアル”のようなものが発出されてくれば、より多くの地域薬剤師会で講習がしやすい環境が整うかもしれない。

一方で、上部団体になればなるほど、マニュアルの内容に伴う責任も重くなるため、情報が出きらないと動きづらいという側面も否定できない。

石田氏、竹内氏、加えて同会に協力姿勢を示してくれた多職種の関係者のように、地域限定の取り組みの方が、こうしたパンデミックなどの場合には小回りがきくのかもしれない。そして、同会が講習会まで至ったプロセスの水平展開は、今後、講習会を企図する関係者の参考になるだろう。

ただし、こうした地域ごとの取り組みは、地域のリソースに左右される。地域包括ケアが“属人的”といわれることにも似ている。コロナのように前例のないこと、急を要するようなケースにおいて、中央や上部団体が地域をどのように機動的に支えることができるのか。検討の余地が大きいといえそうだ。

ワクチンの希釈作業などで薬剤師の参画が求められる可能性が高い
※出典は厚労省HP
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000726454.pdf

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【コロナワクチン薬剤師研修_詳細レポート】2月27日に実施された東住吉区薬剤師会の内容

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