人事の「透明性」

 「ないものねだり」と言い切ってしまうのは抵抗を感じるが、無理な注文が混乱に拍車を掛けているような気がしてならない。「透明性の確保」を強く求められている東京五輪・パラリンピック組織委員会の後任会長選び▲大きな組織でも小さな会社でも「人事」には多かれ少なかれ秘密がつきものだ。もしも〈何かの役職にAさんを就ける〉という決定の過程が全て明らかにされたら…と考えてみた▲途中で名前の消えたB氏は、自分への思わぬ低評価を知ることになる。自分ばかりでなく、皆もその評価を知る。Cの方が適任、いやDが、と異論が噴出する可能性もある。ヒトには感情がある。予期せぬ摩擦や対立など“副作用”も心配だ▲ところで、少し意外なのは、この「透明性の確保」が他でもない菅義偉首相の意向とされていることだ。事実、国会でも「透明でルールに基づいた選考をしてほしいと強く申し上げた」と語っているのだが▲思い出しているのは日本学術会議の新会員任命拒否問題だ。「総合的・俯瞰(ふかん)的」な視点で決めたらしい一部の任命拒否は「言えることと言えないことがある」と言われたきり、説明らしい説明を聞いた記憶がない▲同じ人物の発言とはなかなか考えにくい。自分のことは棚に上げて-相当に丈夫な棚をお持ちらしい。(智)


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