立命館キャンパスDXで、「誰もが、いつでもどこでも学び、学び合える」キャンパスに

学園創始150年、創立120年を迎えた立命館大学。建学の精神は「自由と清新」、教学理念を「平和と民主主義」とする。昨秋には、2030年を見据えた中期計画「学園ビジョンR2030チャレンジ・デザイン」を策定。人類に共通する社会課題の解決に向け、社会共生価値の創造とイノベーションに取り組む「次世代研究大学」を目指している。一昨年学長に就任した立命館大学情報理工学部の仲谷善雄先生は、大学で心理学を学び、就職した民間企業では人工知能の研究やSEを経験。大学教員となってからは学部長、そして学長へとキャリアを積み重ねてこられました。仲谷先生に、ポストコロナにおける大学の在り方、これからの立命館の挑戦についてお聞きしました。

大学とは

大学とは知的創造活動の場であり、知的な刺激を社会に与え続けることでその諸課題の解決に資する存在だと思います。もちろん直接資することを目的にする工学から、結果として資するような、たとえば哲学のようなものまで分野は多岐に亘ります。いずれにせよ重要なのは、それぞれの立場で、いかに社会と向き合い、知的創造活動に学生を巻き込んでいくかが重要だと思います。

2018年、立命館は、「学園ビジョンR2030挑戦をもっと自由に Challenge your mind Change our future」を策定しました。これは先を見通すことが困難な時代だからこそ、私たちは挑戦していくのだという勇気と決断を宣言したものです。さらに、学園ビジョンR2030に基づき大学としてのチャレンジ・デザインを昨年11月に策定し、本学としては以下の二つを重視しています。

一つは世界で認められる次世代研究大学を目指すというもの。研究は広い意味では探求とも表しますが、大学院が研究力で全体を引っ張り、その刺激を受けて学部教育では探求力を高めたい。もう一つはそれを社会課題の解決にいかすなど、実践を通じて、社会の変革、あるいはイノベーションの創出に寄与することです。建学の精神にいう《清新》とは、《新たにする》の意でイノベーションとも言い換えられる。創造とイノベーションの精神で、社会を変えていく人材を育成する学園でありたい。

学園全体では、小学校、4つの附属高校すべてで、探究力を育成するための取組を続けてきています。附属高校では、すべてSSH(スーパーサイエンスハイスクール)か、SGH(スーパーグローバルハイスクール)の、どちらかまたは両方に選ばれています。SGH事業終了後は、立命館宇治高校が「WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業」の拠点校に選ばれています。国際的なレベルで探求心を鍛えた附属校の生徒を受け入れるためにも、大学は彼らの探求心に応えられるようにしならなければならない。教員が研究力を一層高め、成果を出せば、それを見て海外から優秀な若手研究者や留学生がきてくれるという好循環も生まれると思います。

RIMIX

総長ピッチ

その一つが、RIMIX(RitsumeikanImpact-Makers InterX(Cross)platform)です。立命館アジア太平洋大学(APU)、附属校も巻き込んで、「社会課題解決に貢献する人材・マインド養成から起業支援までの取組を一つのプラットフォームとして《見える化》し、学園内外との連携の下、学生・生徒・児童への支援の拡充を図る」ことを目的に、2019年12月にスタートしました。「SDGsに代表される人類共通の課題に対する問題意識、そこから生まれるチャレンジ精神を起点に、挑戦から起業までをシームレスに支援し、初等・中等教育段階から社会課題を積極的に解決する人材、《社会起業家:Impact-Makers》の養成を目指す」。ソニー株式会社を始めとする民間企業と連携し、各社のノウハウ・資源を活かしてダイナミックな展開を図ります。

その象徴ともいうべきプロジェクトが、先頃2年目を終えた「総長PITCHCHALLENGE」(以下総長ピッチ)。「ワークショップ」、「インプット」、「ブラッシュアップ」の3つの段階からなり、半年をかけて行います。学園の学生・生徒・児童がチームで考案したプロジェクトをビジネスレベルまでブラッシュアップし、最終的に選ばれたチームが総長へピッチ(投資家などに対して短時間で行うプレゼンテーション)します。

「総長PITCH THE FINAL」[写真]では、1チーム5分間のピッチと3分間の審査員との質疑応答で「総長賞」「SSAP賞」に加え「オーディション賞」を決定。入賞者は各賞に応じて、オーダーメイド研修などの特典と、アクセラレーターによる個別フォローアップが受けられます。すでに昨年の入賞者からは、事業展開を進めているチームも生まれています。

初年度から学園内の反響は大きく、大学ではキャンパスやサークル単位など学部を越えたチームも目立ちます。何気ない会話から生まれた面白いアイデアを、「総長ピッチ」にぶつけてみようとエントリーするグループもあります。運営等にご協力いただいているソニースタートアップアクセラレーションプログラム(SSAP)も、「とにかくビジネスでも通用するレベルにまで持っていきたい」と本気で応援してくれていますし、卒業生が後輩のサポートを行い、参加意欲を高めるなど、エコシステムが生まれ、ますます裾野が広がるのではないかと期待しています。

プロジェクトの目的は、社会課題に関心を持ち、その解決を図るためのアイデアを出し合い、実現可能な計画に落とし込むことを励ますことで、それに優劣をつけることではありません。終了後もそれぞれの立場、思いで問題意識を大きく育て、アントレプレナーシップ(起業家精神)に目覚め、将来、起業する、あるいは企業に入ってその中で新しいプロジェクトを立ち上げるような、いわゆるイントレプレナーを目指すにきっかけになってほしいです。社会起業である以上、利潤追求だけが目的でもありませんから、NPOの活動でも構わない。また働き方の複線化が推奨されていますから、正社員になり副業に関心を持ってもらうのもいいかもしれません。

他にも様々な活動を支援、見える化

みなさんは、SDGsに代表されるさまざまな社会課題に関心があると思います。SDGsは、環境・貧困・紛争・教育・食糧など、持続可能な社会を実現するために私たちが取り組むべき課題を提示しています。持続可能な未来に向けて、私たちがさまざまな課題に対して主体的にチャレンジすることが問われているのです。本学では2016年、国連がSDGsを掲げた翌年の夏、学生主体でSDGsの17の達成目標に向けて課題解決に取り組むSustainableWeek実行委員会[コラム]という学生団体が発足。地域住民の方々や企業、自治体などを巻きこみ持続可能な活動をしています。彼らの活動を支援するのも、広い意味でのRIMIXの役割です。

R I M I X の活動の一つである「BeyondCOVID-19」は、コロナ禍でリアルな活動が制限される中でも、「何か行動を起こしたい」という学生の声をもとに、オンラインコミュニティスペースを整えたのが始まりです。立命館学園の学生・生徒・児童・教職員がプロジェクトを立ち上げ仲間を集うことができ、80以上のプロジェクトが発足しています。

自分たちが全力を出せるような機会、信頼できる場を提供すれば、学生や高校生が積極的に参加してくれるのをみて、そもそもわれわれはこれまで、教えることに重きを置き過ぎてきたのかもしれないとも思っています。これでは、学生、生徒は教える者を越えられない。乗り越えてもらうには、自分たちで主体性を持って取り組める環境が不可欠。われわれの役割はきっかけ作りであり、共に成長していくという姿勢で彼らに寄り添い、適切なアドバイスをしたり、学外とのコーディネートをサポートしたりすることが重要ではないかと思っています。

元々本学には、学生同士が学び合い、教え合うピアラーニングの文化があります。ここからは優れた活動がたくさん生まれてきていて、本学の強みの一つになっていると思います。今回の総長ピッチも、チームとしての参加を促すという意味ではその伝統を受け継ぐものですし、新しい時代のニーズがますます複雑化する中、各々が得意分野で課題を発見し、連携して取り組むことは、研究面でもとても重要だと思います。

コラム

実行委員会:Sustainable Weekは、立命館大学びわこ・くさつキャンパスで始まった。キャンパスを1万人の「小さな地球」と見立て、SDGsにおける17のゴールを目指して、啓発・解決の視点から主体的に取り組むイベント。実行委員会は、大学を核に、周辺地域を巻き込む増殖型SDGsエコシステムを創造するというVisionの下、「学生同士が連携し、社会と繋がりながら、主体的に課題解決に取り組む次世代のSDGsリーダーになる」をMissionとする。①学生自身が、所属組織の持続可能性について深く考え、自己表現する機会の提供、②立命館大学びわこ・くさつキャンパスから社会課題解決に向け提言、③時代、社会、人の変化に対応できるサステイナブルキャンパスの実現」を理念に、SDGsに則した組織を創り、組織や考え方を柔軟に進化させながら、学生や社会、大学の在り方を持続可能な形に変化させることを目指す。

今後の課題

裾野をさらに広げること。本学は約35,000人の学生が学び合う私立総合大学であり、RIMIXには問題意識の高い学生が集まっています。大学全体を見ると、その中にはSDGsを知らずに入学してくる者もいます。学生全員に社会課題に向き合ってほしいというのもむずかしいかもしれませんが、少なくともその重要性についての認識は共有してもらいたい。

そのためにも《知の見える化》、学園内で行われている知的創造活動については、学内外を問わずとにかくアピールすることがますます重要になってきます。誰が、いつ、どこで、どんな事をしているかが分からなければ賛同しようもないし、関心の持ちようもないからです。

世界の大学と競うために、大学版DXにも挑戦

2020年は、「大学とは何か」ということをこれほど突きつけられたことはなかったと思います。先の見通せない状況が、ある日突然、世界的規模で起こることが現実として突き付けられました。私たちが解決しなければならない社会課題は、ますます複雑化し、これまでの方法では解決が難しくなってきています。このような状況において、立命館の使命は、「地球市民として活躍できる人間の育成に努める」と立命館憲章に定めるとおり、時代と社会に真摯に向き合い、挑戦していく人材の育成にあると考えます。

本学は4月からは、感染症対策を講じてキャンパスを全面的に開放し、対面をベースに新しいキャンパス作りを始めます。ただ、単に以前に戻るのではありません。この1年近くの試行錯誤を通じて、有効性の確かめられたテクノロジー技術を使って、より高度なキャンパス、「誰もが、いつでもどこでも学び、学び合えるキャンパス」を整備したいと計画しています。

一般的に、授業をリアルかオンラインかの二項対立で捉える風潮があるのは事実ですが、この間、多くの大学ではオンライン教育の良さについても再確認してきました。事情があってキャンパスへ来ることのできない学生も、オンラインなら学べます。オンデマンド配信が充実すれば、受講した対面授業を何度でも復習できます。教える側も、他の教員がオープンにしている教材を参考に、自分の教え方を見直すこともできる。こうしたオンラインの良さをリアルと組み合わせた新しい学び方、学びのスタイル、あるいはこのような新しい教育の場、枠組みの提供を、われわれは立命館版のキャンパスDXと称し、4月以降、積極的に展開していきたいと考えています。

冒頭、大学とは知的創造活動の場だとお話しましたが、今後、国内、さらには海外の大学との激烈な競争が予想される中、それに本気で取り組んでいくところだけが残っていくのではないかと考えています。世界に目をやれば、東アジアだけでなくアフリカでも、海外で学びたいという若者はますます増えています。もちろん一朝一夕にできることではないかもしれませんが、研究力、探求力をなお一層高め、社会課題の解決に挑戦する人材の育成に力を入れることで、そんな彼らにも選ばれる大学を目指したいと思っています。

高校生へのメッセージ

社会課題に敏感に。文系こそデータサイエンスの基礎、数学を

先を見通せない激動の時代と言われる今、その狭間で辛い思いをしている人たちがたくさんいます。一人の力では難しいとしても、みんなで力を合わせて社会課題を解決していこうというマインドを持ってほしいと思います。

私の専門とも関連しますが、今、話題のAI、データサイエンス、統計と言ってもいいかもしれませんが、これらについては、どんな分野を目指す人も最低限の知識、リテラシーを持っておくべきだと思います。世の中にある膨大なFACTを分析できる時代なのですから、やはりそれを使って、新しいこと、新しい価値を生み出していくべきだろうし、事実、誰にもそのチャンスはあると思います。文系だから数学はやらなくていいのではなくて、文系だからこそやっておく。そうしないとAIもデータサイエンスもわからなくなり、ベンチャーも起こしにくいと思います。

意見のぶつかりあいを怖がらず、知的アドベンチャーを楽しもう。

他人と意見がぶつかり合うのを怖がらないでほしいと思います。なにも人格の否定、人格をぶつけ合うわけではないからです。人それぞれ意見は違って当たり前。同じでなければならないと思うから苦しんだり、敵対したりするようになる。ではその違いをどう乗り越えればいいのか。《正反合》、いわば弁証法的に、譲歩するのではなく、両方が成り立つ方法、解を、一段上に上がったところで探す努力をしてみてください。それはきっと、新しい価値の発見につながるはずです。まさにそれは、知的アドベンチャーというべきもので、世の中にこんな面白いことはないと思います。

探究心を鍛えるのは、授業でだけでなく、サークル、部活でもいいと思います。自分が興味のあることをとことん追求することです。サッカーなら、PKにこだわって、とにかく絶対外さない方法を考えるとか、ドリブルの奥義を窮めるというのでもいいでしょう。3年間なら3年間、主体的に一生懸命取り組んだ経験は、探究心を育て、自分に対する自信にもにつながるはずです。

挑戦をもっと自由に。その場その場で努力すれば道はおのずと開ける。少し私のエピソードも

学園ビジョンR2030では、「挑戦をもっと自由に」を掲げています。自分の心の中の気づかないボーダー、あるいは制約を明らかにして、それを乗り越えるべく挑戦しようということになります。人も社会も制約が多すぎると、硬直化してしまいます。「こうでなければいけない」「こうあるべきだ」と言い過ぎると、息苦しくなる。世の中、それほどたくさんの制約が必要なのか。多くは、自分たちが勝手に作っているものではないのか。それなら一度外してみる、そういうチャレンジをしてみたらどうだろうか、ということです。

自分のことを少し振り返ると、大学を卒業して就職後、心理学出身者として、避難行動をモデル化したシミュレーターの開発に携わる一方、研究者の会話についていけるよう専門的知識を必死に身につけました。30代になって、米国・スタンフォード大学に研究留学し、人工知能の研究に携わりました。そんな研究と企業でのマネージャー職に従事するなかで、研究への思いと共に、「人を育てたい」という思いも募りました。ちょうどその頃、立命館大学が情報理工学部を新設。24年間の企業人生を終え、大学での教育と研究を手掛ける次のステージへの挑戦を決めました。 幾度か転身を経た経験から一つ言えるのは、その場その場で全力を傾ければ、道はおのずと開けてくるということ。違う環境に身を置けば、自分の意識も、ものの見方も変わってくるということもあります。挑戦を恐れないことです。

学校法人立命館総長
__立命館大学長
仲谷 善雄先生__

P r o f i l e

1958年大阪府生まれ。1981年大阪大学人間科学部卒業。1989年神戸大学で学術博士を取得。2004年より立命館大学情報理工学部教授。情報理工学部副学部長、総合科学技術研究機構長、情報理工学部長、学校法人立命館副総長・立命館大学副学長等を歴任し、2019年より現職。専門分野は、防災情報システム、人工知能、認知工学など。

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