トヨタ自動車・クロンHCが見る日本の将来「超一流選手とのプレーでラグビー脳が進化する」

(右から)トヨタ自動車のクロン・ヘッドコーチ、サントリーのB・バレット、NTTドコモのマピンピ

【The インタビュー~本音を激白~(12)】ラグビーのトップリーグ(TL)は20日に新シーズンが開幕する。2019年W杯でベスト8入りした日本代表の快進撃を受けて開幕した昨季は、新型コロナウイルスの影響で昨年3月に打ち切り。今季に向けても複数のチームに感染者が出た影響で約1か月遅れのスタートとなる。連載「The インタビュー」第12回、TL初制覇を狙うトヨタ自動車のサイモン・クロン・ヘッドコーチ(HC=45)がTLの見どころや日本ラグビー界について語った。

――ようやく開幕だ

クロンHC(以下クロン)目標は優勝。2位に甘んじる考えは全くない。プロセスがあってこその優勝なので、やり切るだけ。まずは一試合一試合にフォーカスしていきたい。これまでのトヨタ自動車は一貫性に欠けることがあった。それが途切れたときに得点を許してしまうことが多く、今シーズンは一貫性を重視していきたい。

――開幕延期をどう受け止めたか

クロン 残念だったが、多くのチームでコロナの感染者が出ているため(延期は)正しい判断だった。隔離、自粛期間が続き、5週間ほど予定が変わってしまったが、プレーヤーはメンタル面でもタフにしっかりと取り組んでいる。

――開幕戦の相手は東芝となった

クロン 非常にフィジカルなチームでボールキャリーが強いチームという印象を持っている。調整? 一人ひとりにスキルの向上とラグビー脳をしっかり養い、ハードワークを積むように要求している。プレシーズンは、より選手層を厚くすることを目指してきた。日本一になるためのポイントになってくる。

――コロナ禍で練習が制限された時期も

クロン ほかのチームも同じだが、様々なことが急に変わり、選手、スタッフは適応力を養わなければならなくなった。それはレジリエンス(環境に適応する力)という言葉でも表現できると思う。例えば、普段なら新幹線を使って東京に行くところを5時間半かけてバスに乗って練習試合に行くこともあった。最終的な優勝チームは適応力が高かったということになるかもしれない。

――今季はニュージーランド代表SOボーデン・バレット(29=サントリー)ら世界屈指のスターが集結した

クロン どんなチームでも彼(バレット)を見たら脅威に感じるが、世界一の選手を相手にできるのは非常に楽しみ。そして、日本人のスキルセット、マインドセットが伸びている中、この中で活躍することによって、より高いレベルに上がっていくだろう。レベルの高い外国人と一緒にプレーすることでラグビー脳も進化していく。

――トヨタも元ニュージーランド代表ナンバー8のキアラン・リード(35)ら実力者が揃う

クロン 彼らの存在は大きい。プレーで引っ張るだけでなく、リーダーの育成にも及んでいる。それに若手選手のラグビー脳を養うところにも貢献している。

――今季は日本代表ナンバー8の姫野和樹(26)がスーパーラグビー(SR)挑戦で不在

クロン 彼は素晴らしい人格者。日本人として海外でプレーし、日本のラグビーカルチャーを「見せたい」と言っていた。我々としては最大限サポートしたい気持ちでいる。チームとしては痛手だが、ハイランダーズ(ニュージーランド)で活躍し、シーズンを終えた後には、もっといい選手になって帰ってくると確信している。

――姫野ら日本代表は19年W杯で大活躍した

クロン 日本の強みとは、ラックスピード、高いボールスキル、素早くボールを動かせることだが、それを生かした戦い方をしていた。世界に対して日本人はここまでプレーできるというポジティブな印象を植え付けた大会だった。

――そのW杯では福岡堅樹(28=パナソニック)、松島幸太朗(27=クレルモン)が活躍

クロン 彼らは非常に優れたアスリート。あのスピードは大きな武器となっていた。コーチ陣は、彼らのスピードを生かすような戦術をつくり上げたと思う。

――23年フランスW杯の組み合わせが決定

クロン(日本は)イングランド、アルゼンチンが入ったチャレンジングな組だが、19年は(1次リーグで)アイルランドとスコットランドに勝っている。23年に向けて日本代表コーチ陣の頭には、相手に勝つためのプランを用意しているだろう。

☆サイモン・クロン 1976年2月4日生まれ。ニュージーランド出身。同国のカンタベリー大卒。2017年にU―20オーストラリア代表監督、18年からスーパーラグビーのワラターズ(オーストラリア)でアシスタントコーチを務め、19年11月にトヨタ自動車のヘッドコーチに就任。1年目の昨季は新型コロナウイルスの影響で開幕6試合で打ち切りとなった。

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