長崎市魚の町の新しい市庁舎建設現場に、タワークレーン2基が仲良く並んでいる。地上約50メートルという運転席にそれぞれ座るのは、長崎市出身の岡田一條さん(46)、一鶴さん(44)の兄弟。生まれ育った街で大役を担う誇りと喜びを胸に、仕事に励んでいる。
クレーン運転士だった父親の姿を見て育った2人。自然と同じ道を選んだという。共に運転士歴20年以上で、兄の一條さんは九州各県で、弟の一鶴さんは地元の現場で仕事に汗を流してきた。
約半年前、一條さんの勤務先のエスシー・マシーナリ(横浜市)に、一鶴さんが入社。その後間もなく2人で古里の市庁舎建設現場を希望したところ、初めて一緒に働くことになった。
「目まぐるしく街並みが変わる瞬間に立ち会い、大型クレーンを兄弟で任されるなんて格別の思い」。一條さんは感慨深げに語る。
2人は朝から夕までの日中、高所の運転席で作業。現場ではタワークレーンのほか、移動式のクレーンも稼働している。それぞれの作業範囲や旋回の向きなどに細心の注意を払いながらの操作。綿密な情報の共有が大切で、作業の前後にいいことも悪いこともズバズバ言い合えるのは兄弟だからこそという。互いに頼もしくもあり、ライバルでもあると顔を見合わせる。
休憩中には、学校帰りの小学生からの熱い視線に手を振って応えることも。「これから仕事場はさらに高くなり、絶景を“2人占め”。しっかり気を引き締め、事故なく最後までやりきりたい」と一鶴さん。市民の期待もパワーに換えて、切磋琢磨(せっさたくま)の“兄弟クレーン”が未来の長崎をつくる。