2022年静岡に初の土木工学科(仮称)を設置 静岡理工科大学

静岡県内唯一の私立理工系総合大学として独自の歩みを続けてきた静岡理工科大学。

教育方針は「研究が人を育てる」。

「研究力」とは「自らを

ぎすまし 学びを

め 人としての

をつける」ことであるとして、専門力と人間力を養うことで、地域の課題解決に貢献する人材を輩出してきました。

静岡理工科大学では、2017年の建築学科開設に続き、2022年には、理工学部に土木工学科(仮称)の設置を構想しており、理工学系主要分野をすべて揃えることで、さらなる飛躍を目指しています。

改革を主導される野口博学長は、建築がご専門ながら、東京大学や千葉大学では教育・研究環境の情報化を牽引されるなど、デジタルと建築、土木の融合に早くから取り組んでこられました。

野口先生に、新学科開設の背景、目的、展望等をお聞きしました。

デジタル革命で土木にも技術革新の波が

私が今、襟につけているのは、静岡県による「静岡どぼくらぶ」※のバッチです。「土木love」(土木を愛する)と書かれていますが「ドボクラブ」とも読め、このバッチをつけることで、土木を愛する仲間、チーム土木の一員であることを表わしています。

大学における土木工学は、昭和30、40年代には高度成長を牽引役として人気を集めましたが、低成長時代には人気を失い、名称も都市基盤などと変更されるようになりました。ところが近年は、高度成長期に整備されたインフラの老朽化や、100 ~150年に一度と言われる南海トラフ地震、気候変動によるこれまで経験のない豪雨など、環境や状況は変わってきました。地元の高校生の間でも、巨大地震への危機感は共有されており、自分たちで防災、減災に向き合おうとの関心も高まっています。

一方、AI、ロボット、IoTに象徴される近年のデジタル革命は、土木工学にも技術革新をもたらしています。ドローンを使えば、人間の目では行き届きにくい場所の構造物の劣化、線路の損傷などを発見できますし、人手不足に対応する目的もあって、ロボットなどの開発も加速しています。近隣の浜松市では、足場を組まず、離れた場所からレーザでさび落としのできる仕組みを開発するベンチャーも出てきました。測量でも、樹木があっても地形のわかるグリーンレーザの開発も進んでいます。もちろん膨大な画像を集め、それをビッグデータとしてAIで解析する手法は、土木においても有効です。土木分野では、他分野に先んじて新しい技術の導入、活用が図られているのです。

※「土木の将来、静岡県の未来をともに考え土木の現場でつながる広いサークル(仲間)・・。静岡県の土木に関わる人みんながチームの一員という意識を持ち、この仕事に誇りを持ち、胸を張って仕事をすることを…サポートします。みんなの笑顔をつくり、ダイナミックな現場から土木の素敵を訴えかけるのが大切な役割です」(交通基盤部政策管理局建設政策課)とある。

今、なぜ土木工学科なのか?

このような時代の変化、ニーズの高まりを背景に、本学では2022年、理工学部に土木工学科の設置を構想しています。

構想概要

■設置学科/理工学部土木工学科(仮称)

■開設時期/2022年4月1日開設予定

■開設場所/静岡県袋井市豊沢2200-2

■入学定員/50名(予定)

※理工学部土木工学科(仮称)は、2022年4月1日の開設を目指して設置準備を進めています。学部学科の概要等は予定であり、今後の検討の結果、本概要を変更する場合があります。

本学が立地する静岡県は、東西に長く、海岸線と高い山々に挟まれ、大きな河川も流れており、防災は身近な課題です。東西交通の要所で、大規模災害が発生すれば、全国に影響が及びます。このことは、静岡県が防災教育にとって絶好のフィールドであることを意味しますが、これまで県内には、土木分野で防災・減災に係わりたいという人材を受け入れ、養成できる教育機関がありませんでした。土木技術者だけでなく、河川監視員も港湾監視員等も、これまでは、県外教育機関に頼らなければなりませんでした。県内の高校生を受け入れ、県内へ理工系人材を輩出することをミッションの一つに掲げてきた本学としては、土木全般をカバーする人材、技術者養成は急務であると考えたのです。

土木工学というストレートな学科名を予定しているのも、目指している教育が明確に伝わりやすいと考えたからです。今、土木を学び、技術を身につけるのは、単に歴史に残る構造物や、現代のインフラを残すためだけではありません。これからの防災・減災の在り方を考え、そのために最適な技術を身につける。あるいはスマートシティーに象徴される人々の生活の質を高める都市や地域を計画したり、自然環境との融合や、安全で快適な生活環境を考慮した社会基盤整備などに求められる理論や技術を学ぶということを、予めわかって入学してきてほしいのです。

学びの特徴と卒業後の進路

新学科では、土木工学の専門分野である《水工学》、《地盤工学》、《都市環境学》、《土木材料学》、《土木構造学》を揃えます【下図】。土木工学は社会課題の解決を目指す学問・技術であり、総合工学であるという認識の下、1、2年次で専門分野それぞれの基礎を可能な限り幅広く学びます。AIやデータサイエンス、ロボットやドローンなどに関する最新のデジタル技術も積極的に取り入れ、それらを使いこなせる次世代土木技術者の養成を目指します。

加えて、静岡県をフィールドとした実践的な学びにも力を入れます。それを象徴するのが1年次から順次始まる『プロジェクト科目』。防災・減災やインフラ整備など、具体的なテーマを掲げ分野横断で学びます。座学、フィールドワーク、演習、実験、第一線で活躍する実務者の方の講義参加など、多様な学びを組み合わせます。

50名の定員に対して教員は9名。先行する他学科同様、教員一人当たりの学生数は5人台という少人数制教育を予定。教員との距離が近く、きめ細かな指導が受けられることで研究力、人間力が磨かれるとともに、自主性も身につきます。また本学では、学生が自由に使用できる研究施設・設備が充実しており、技術の修得・向上に繋がると同時に、企業との連携の場にもなっています。土木工学科においても、分野横断の学びの場を象徴する「土木工学科棟」と実践的な研究を支援するための実験棟を建設します。

本学の就職実績は、全国でも毎年上位にランクされており、2019年度における本学の実就職率(就職者数÷(卒業者-進学者))は97.0%、工科系大学の中では全国6位(大学通信調べ)です。今春初めて卒業生を出す建築学科にも、2000社以上の企業から求人が寄せられました。新学科においても多くの企業から引き合いが来るのではないかと期待しています。また、県庁だけでなく、大学近隣の各市も防災計画に力を入れており、土木の専門職を積極的に育成・採用していきたいという意向もあることから、企業に加えて公務員への道も開かれていると思います。もちろん大学としても、それに応えるべく公務員試験対策講座などを充実させていく必要があるでしょう。

新校舎〔土木工学科棟(仮称)〕完成予想図

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新しい土木文化を発信する!土木工学科棟(仮称)[/caption]

鉄筋コンクリート造4階建て延べ床面積約3400㎡。コンクリートの巨大な3本の柱で、床と強靭なワッフルスラブの天井を支えるユニークな建物。階段やエレベータ、設備スペース、倉庫などは柱の中に内包し、巨大な透明ガラスで区切られている中央のアトリウム越しに、中の活動を見ることができる。

「融合のシンボル」をコンセプトとし、「環境との融合」「地域との融合」「理工融合から文理融合」「建築と土木の融合」「土木各分野の融合」「教員と学生との融合」「学生間の融合」を表す。1階は、多目的作業やアクティブラーニング、プレゼンテーションのできる対話/協働/発表のフロア。2階は、大教室と教室で構成される「知識学習のフロア」。3階の「知的交流のフロア」、4階の「研究創造のフロア」は、学生同士や教員の対話をもたらす開放的なワンルーム階層。教員用スペースは最小限にして、それを家具などで分節した学生の居場所が取り囲む。

高校生へのメッセージと静岡理工科大学のこれから

数学や物理など、構造設計に不可欠な科目はしっかり勉強してきてほしいと思います。学習以外の面では、友人や仲間と積極的にコミュニケーションを図ること。土木は協働作業です。研究室への配属後に、垣根を越えて共に学ぶことも少なくありませんし、就職してからも、常にコミュニケーション力が求められます。

静岡県は「≪ふじの国≫の文化力を活かした地域づくり基本構想」などにみられるように、県全体で文化力を重視しています。本学にとっても文化は、決して無関係ではありません。土木工学科が新設されることで、文字通り理工系総合大学になるのを機に、本学も、優れた人材の輩出に加え、分野融合による付加価値や、本学ならではの文化を生み出し、それを発信できる大学を目指していきたいと考えています。

静岡理工科大学
野口 博 学長

P r o f i l e

昭和45年東京大学工学部建築学科 卒業、昭和51年同大学院工学研究科建築学専攻博士課程修了 工学博士、昭和51年東京大学工学部助手 建築学科、昭和52年千葉大学工学部講師建築学科、昭和54年同助教授、平成3年1月同教授、平成16年千葉大学総合メディア基盤センター長、平成17年同工学部長、平成19年同大学院工学研究科長、平成26年4月から現職、総合技術研究所所長。

一級建築士、千葉大学名誉教授。東京教育大学附属駒場高等学校(現筑波大学付属駒場高等学校)出身。

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