後任は決まったが

 〈…84歳の高齢は気掛かりだが、発する言葉の強さや漂わせる迫力に衰えは感じさせない〉-舌禍で去る森喜朗・東京五輪・パラリンピック大会組織委会長の後任に固まった、と報じられた翌日に載った川淵三郎氏の人物評の結び▲その手があったか、と多くの人が感じたはずだ。初代チェアマンとしてJリーグを成功に導き、協会の内紛で国際試合から締め出されたバスケットボール界を建て直した。スポーツへの情熱や手腕は折り紙付き▲地に落ちた大会組織委の信頼回復と、五輪開催を巡る難しい決断。どちらも難事業だ。「火中の栗を拾う」役回りには最適任の人-と思われた。極めて好意的な人物評もおそらくその表れだろう▲森氏による後継指名の経過が明らかになり、密室人事だ院政だ、と批判が強まって「川淵案」は白紙になった。だが、批判噴出の引き金は、川淵氏が一連の舞台裏を包み隠さず明かしたことだ。年長者をつかまえて恐縮だが“正直者”の何よりの証明に思える▲大会組織委の新会長に橋本聖子前五輪担当相が就任した。聖子の「聖」は前回東京五輪の聖火の「聖」。強い「五輪愛」で難局に立ち向かう姿を期待しつつ▲それにしても、川淵さんは何だかとても気の毒だった-と、見当違いの感想がいつまでも頭を離れないでいる。(智)


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