【中原中也 詩の栞】 No.23 「道修山夜曲」(『黎明』昭和12年4月号)

星の降るよな夜でした
松の林のその中に、
僕は蹲んでをりました。

星の明りに照らされて
折しも通るあの汽車は、
今夜何処までゆくのやら。

松には今夜風もなく
土はジツトリ湿つてる。
遠く近くの笹の葉も
しづもりかへつてゐるばかり。

星の降るよな夜でした、
松の林のその中に
僕は蹲んでをりました。

     ――一九三七、二、二――

 

【ひとことコラム】道修山は千葉市にある地名。中也はそこに建つ中村古峡療養所でひと月余りを過ごし、入院中に書いたこの詩を療養所の機関誌に発表しました。高く光る星や遠くを走る汽車が表す夜景の広がりの中、詩人は姿勢を低くして身近な自然とともにある自分の存在を確かめています。

中原中也記念館館長 中原 豊

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