ダブル介護で仕事ができない!

祖父母の面倒もみる「8030問題」とは?

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 20~30代で祖父母や親の介護のため、仕事ができない人がいることはご存じだろうか。少子高齢化も進み、その数は徐々に増加傾向にあるという。問題を著書「おばあちゃんは、ぼくが介護します。」(法研)にまとめた作家でメディア評論家の奥村シンゴ氏が自らの体験をもとに解説する。

 ▽「ダブル介護」は突然…

 筆者は子どもの頃、母親、祖母、弟、妹の5人家族だった。父と母は筆者が小学1年の時に離婚しており、その後、祖母が分譲マンションを購入。家族で暮らしていた。

 弟は2008年、妹は10年に結婚し家庭を持った。筆者は大学卒業後の05年ごろ頃から、テレビや携帯電話など放送・通信関連の商材を扱うコールセンターで、営業や顧客対応をしていた。一人暮らしで、実家には母と祖母が2人で住んでいた。

 12年9月のことだった。祖母が弟の子どもの「写真」と添い寝しながら、「ご飯、食べさせてあげなさい、お水もあげなさい、死んじゃうでしょ」と母親に怒ったのだ。筆者は祖母に「ばあちゃん、何言うてんの?これは写真やで」と繰り返し説明するものの祖母は理解できず、病院の脳神経外科を受診。「初期から中等度のアルツハイマー型認知症」との診断を受けた。

 同時期に母も脳梗塞で倒れてしまい「ダブル介護」の必要に迫られた。30歳を過ぎたばかりで独身の筆者が引っ越し、 祖母と母の在宅介護を1人で始めることになった。コールセンターの仕事は辞めざるを得なかった。

 ▽夜中に突然外へ飛び出す祖母…

 祖母はおしゃべりが好きで、とにかく「自分はしっかりしている」という意識が強かった。金銭管理ができないため、筆者が祖母のお金などを預かって管理していたが「お金を返せ、警察 を呼ぶぞ」と暴言をたびたび吐いた。

 夜中に突然「富山(の実家)へ行くの」と言い出し、「夜中やで。朝になったら行こう」と言っても聞かず、外へ飛び出してしまったこともあった。その後、祖母は「あんたしかおらんねん、お願いやから助けてえな」と弱気な言葉を口にする一方、「私は負けないよ、頑張って生きるで」と前向きに話すこともあった。。

 筆者は、祖母の要介護度が1~2だった3年間、月2泊3日のショートステイを除き、1人で在宅介護をしていたので、仕事ができなかった。その後、祖母が認知症の進行やケガで要介護度4に上がり、介護サービスの利用時間を増やすことができるようになった。母の介護も一段落し、在宅で作家などの仕事ができるようになった。

 祖母は、19年1月に認知症の進行で精神科の病院へ入院した。20年11月には体調が悪化することが増え、療養型の病院へ転院した。祖母の体調が悪化するたび、筆者は付き添いのため病院へ行く。このほか、週1回の面会や月1回の病院カンファレンスへの出席に加え、入院費の支払いや手続きも担っている。

 ▽30代の介護者は32万人以上

 国の17年の 就業構造基本調査によると、家族を介護する15~39歳の人は、54万人で5年前から約3万5000人増加した。季刊家計経済の調査では、30代は32万79000人(男性12万5300人、女性20万2600人)。うち、職を持たない人(無業者)は29万人以上だ。

 80代の父母が引きこもりの50代の息子や娘の面倒を見る「8050問題」は知られている。これになぞらえ、筆者のように30代で80代の祖父母の介護に追われ、働きたくてもなかなか働けない問題を「8030問題」と名付けたい。

 なぜ8030問題が起きるのか。親の病気や障害などに加え、家族の間で要介護者への愛情の差があることや、経済的な事情もあるだろう。

  わが家は、ダブル介護が必要になり家族会議を開いたが、筆者を除いてはあまり「協力しよう」という雰囲気にならなかった。前述の通り、母は患っていた脳梗塞から回復した後、今度は大腸がんや心臓弁膜症を発症。自らも介護を必要とする状況が続いていた。

 筆者は、兄弟の中で祖母に一番かわいがられていたような気がした。洋服やおもちゃはいつも一番に買ってもらい、大学進学の費用を出してもらえたのも筆者だけだった。

 このため、祖母に1日でも長く一緒に寄り添って介護をしたいと思えたのかもしれない。加えて、経済的な事情も深刻だった。祖母を施設へ預ける場合、最低でも月20~25万円程度が必要になる。だが、在宅介護であれば月10万円程度で済む。

 祖母は、大手企業に40年間も勤務しており、年金額は少なくなかった。それでも、施設の費用を捻出するには足りなかったのだ。

 さらに、祖母は年金支給日にブティックへ行き、高価な洋服を購入する習慣があった。そのせいか、気づいた時には、固定資産税や住民税など、計250万円もの税金を滞納していた。祖母の住居は裁判所に差し押さえされていて、筆者が今も税金を毎月分割で返納している。

 ▽「8030問題」を防ぐ方法は?

 それでは、8030問題にならないようそれぞれの家庭で備えておけることはあるのだろうか。筆者は4点を挙げたい。

① 普段から家族同士の絆を築く

 別々に暮らしている家族全員で定期的に交流の場を設け、いざというときに介護の分担ができるようふだんからコミュニケーションをとる。

② 家族で役割分担を決める

 6人家族で父に介護が必要になった場合、例えば母が金銭管理、長男と長女は週1回在宅介護、次男は通院時の付き添い、次女は介護施設や病院から届くリハビリ計画書や請求書などの書類管理、といったように、それぞれの立場に応じてしっかり役割分担を決めておく。

③ 祖父母や親に「同意書」を書いてもらっておく

 いつ親が急病で倒れ寝たきりになったり、認知症にかかり物事が判断できなくなったりするかはわからない。どの施設を希望するか、延命治療の方針などについて祖父母や親が元気なうちに意思確認の書面を作成しておいてもらう。

④ 日頃から介護情報を収集しておく

 テレビや新聞、インターネット、書籍などで「介護とはどういったものか」という情報を普段から少しずつでも得ておいたほうがいい。恥ずかしながら、筆者は介護が必要になるまで全く気にしたことがなかったため、祖母の在宅介護に直面した当初かなり焦ってしまった。

 ▽在宅介護者に支援を!

 こうした経験から、行政に講じてほしい施策が2つある。

 一つ目は、在宅介護者に対する支援制度の拡充だ。

 要介護者の介護度が低い場合、1カ月の介護サービスの上限額が少ない。1日の大半を在宅介護に費やすため、やむなく「介護離職」せざるを得なくなる。前述の就業構造基本調査によると、年間約9万9000人が介護離職しているという。

 また、総務省の17年の調査によると、介護離職後、再就職できたのは30・2%に過ぎない。再就職できた人の雇用形態も、非正規のパート・アルバイトが53・6%に上り、正規の職員・従業員になれた人はわずか20.6%に過ぎない。介護離職で仕事にブランクが生じると、正社員で再雇用されるのは難しいのが実情だ。

 ドイツ、オーストラリア、イギリスでは、政策として在宅介護者に毎月現金が支給されるなど「介護は労働である」という概念が根づいている。

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「ヤングケアラーの実態に関する調査研究 報告書」によると、在宅介護者に対する1か月当たりの現金支給額は、ドイツが月約4万~11万円(要介護度により異なる)、オーストラリアは月約10万円、イギリス月約3万6000円という。

 高齢化率が世界最高水準である日本では、消費税による税収増加分は、少子化対策である幼保無償化などに充てられている。税収の一部で在宅介護者を支援する制度ができれば、在宅介護者のモチベーションのアップなどが期待できる。日本もぜひ取り入れてほしいと筆者は願っている。

 ▽「プラットフォーム」の創設を

 さらに、全国の相談先やイベント案内などの情報を一つにしたネット上のプラットフォームが必要だと考えている。

 現在、介護の悩みや疑問を相談するのは、地域包括センターやケアマネジャー、役所、医師、高齢者施設の職員などが一般的だろう。

 筆者は祖母を介護する際、ケアマネジャーに毎月介護サービスが上限内に収まるよう調整してもらったり、主治医に服薬量を相談したりした。ショートステイ・デイサービスの職員に徘徊への対応法を聞いたこともある。

 ほかにもさまざまな情報収集の場はあるが、自治体や団体によって情報があらゆるところに分散しており、わかりにくいのが実情だ。これらの情報をインターネット上の一つのプラットフォームに集約すれば、仕事や育児、家事などで多忙な30代の介護者にとって幅広い情報が手に入り、相談する場所の選択肢も広がる。

 ▽当事者が声を上げやすい社会を

 「家族の介護をしている若者を正確に把握するのは難しいのです。当事者たちが手を挙げにくいのでしょう」と厚生労働省の担当者は話す。

 8030問題の解決の糸口となるのは、当事者が声を上げやすい環境に変えることだ。

 行政の窓口や支援団体など、相談する場所は探せば見つかるだろう。だが「介護のため独身のままで無職の人間の気持ちなんかわかるか」と心にふたをしてしまい、誰にも相談しようとしない人も少なくないのが現実だ。

まずは、先ほど述べた海外の事例を参考にした生活支援や、気軽に情報収集や相談ができるネット上の仕組みを構築することが必要だろう。それが、当事者が声を上げやすい社会の実現への一歩になるはずだ。筆者も、介護をする若者に対し必要な情報を発信し続けるなど、活動を続けていきたいと考えている。(作家・メディア評論家=奥村シンゴ)

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