“タイヤ交換競争”よりもコスト削減。賛否あるなかピットストップ規定を変更へ/GTWCヨーロッパ

 2021年、ファナテック・GTワールドチャレンジ・ヨーロッパ・パワード・バイ・AWS/エンデュランス・カップにおいて計画されているアップデートの一環として、レース中のピット作業規則が変更となり、燃料補給とタイヤ交換作業が同時に行なわれる見通しであることが明らかとなった。

 昨年、シリーズを主催するSROモータースポーツ・グループは、チームが給油とタイヤ交換を別々に行なうことによって、ピットストップにおける競争のレベルを拡大していた。

 SROの創設者兼CEOであるステファン・ラテルはSportscar365に対し、いくつかのチームの要求を緩和するため、2019年に最後に見られた(給油作業と)統合されたタイヤ交換手順が復活する、と語っている。

「我々は毎年、変化をしている」とラテルは述べている。

「“タイヤ交換競争”の緊張感を取り除くため、タイヤ交換中に給油することになる」

「それはチームからの要求だった。チームの多くは、スピーディなタイヤ交換のために必要な少しのトレーニングをやめることを望んでいた」

「優れたタイヤ交換担当メカニックは、最高のエンジニアよりも市場での価値が高くなった。そこでチームからは『やめよう、我々は正しい方向に向かっていない』との声があがり始めた」

 SROは2021年のスポーティング規則をまだ公表していないが、新たなピットストップ規則は、2019年と2020年の規則のハイブリッドになると理解されている。

 2019年はタイヤ交換と給油を同時に行なうことができたが、各車はピット入口から出口までに要する最低ピットタイムが定められていた。

 2020年、最低ピットタイムは廃止され、最大10秒相当の燃料を給油できるショートストップ時を除き、すべてのピット作業において最低給油時間が定められた。スパ24時間レースでは、さらに4分間の“テクニカル”ストップが導入された。

 2021年は、2019年スタイルのタイヤと給油の同時交換、そしてスパにおけるテクニカルストップとともに、最低給油時間ルールは継続される見込みだ。チームは最低給油時間の間に、余裕を持ってタイヤ交換作業ができることになる。

 元ベントレー陣営のチーム・パーカー・レーシングのチーム代表であるスチュアート・パーカーは、最新のルールがチームのピットストップへの支出を減らすことを促す、と示唆している。

「それは、ピットにおける“軍備拡張競争”を引き起こさない」とパーカーは語った。

「(ピット作業に用いる)これらのホイールガンの価格は、最近の小型車のそれと同じだ。ひとつのホイールガンに8000ポンド(約118万円)を費やす必要がある。他のすべてのレースについてもだ」

「このようなスピードでタイヤ交換を行なっているため、ホイールガンはそれに耐えることができない」

「もしマニュファクチャラーの支援を受けるプロチームであれば、それを買う余裕がある。だが、プライベートチームの場合、(プロチームと)張り合うのは常にとても困難だ」

 ハウプト・レーシングチーム(HRT)の代表である、ショーン・ポール・ブレスリンは、高額な費用がかかるのは装備だけでなく、ピットストップ要員にも及ぶと付け加える。

「レーストラックにおいて我々には10〜12人の固定スタッフがおり、トータルでは30人だ」とブレスリンは語る。

「さまざまな場所に住んでいる彼らフリーランサーをファクトリーへと連れてきて、何日もトレーニングする必要がある。これは非常に高くつく」

 パーカーはまた、最低給油時間内にタイヤ交換を終わらせればいい、という緊張の緩和により、メカニックの安全性が改善される可能性が高いことを示唆する。

「20秒未満のピットストップをしようとして、大急ぎでホイールを持って走り回るメカがいる状況を、私はいつも心配していた」とパーカー。

「どこかの時点で誰かが怪我をすることだろうし、それは起こるべくして起きた事故になる」

「引き続き注意をすることは必要だが、このルール変更はメカニックを物理的な危険にさらさないための、少しの時間を与えることになる」

2020年(第2戦から)は、最低時間の定められた給油作業とは別にタイヤ交換をしていたため、交換に要する時間がピットにおけるロスタイムを決定付けていた。

■「優秀なタイヤ交換クルーを確保」するも、必要なくなり……

 一方、ブレスリンはタイヤ交換を給油時間のウインドウ内に再統合することにより、2020年にピットストップがもたらした光景の一部が失われる可能性があると考えている。

 昨年の(エンデュランス・カップ)第2戦ニュルブルクリンク以降、タイヤ交換と給油が別々に行なわれるようになった際、一部のドライバーたちは競争の要素が加わったことに興奮を表明していた。

「我々にとって昨年は最高のシーズンではなかったが、私は素早いタイヤ交換が好きだ」と、昨年HRTチームでプロおよびシルバーカップにおいてメルセデスAMG GT3 Evoを走らせたブリスレンは語った。

「それはレースの一部だと思う。たとえばミザノのレースでは36度の暑さのなかでホイールを持ち上げて走る。ピットストップは、そんな印象的なアスレチック・ショーでもある」

 シリーズがタイヤ交換競争をやめることで、HRTの場合、彼らの2年目のGTレース・シーズンに向け、ピットクルーを編成する方法に調整が必要になると説明する。

 昨年の規則採用により、一部のGTWCヨーロッパの参加チームは、とくにタイヤ交換作業をスピードアップする目的で、人材のトレーニングと投資を行なうようになっていた。

 たとえばベントレー陣営のCMRは、ピットワークが迅速なことで知られるチームWRTの元メカニックを雇い入れた。

「ふたりの優秀なピットクルーを確保することが、(チーム編成における)主なトピックのひとつとなっていた」とブリスベンは述べている。

「昨年末からこの冬にかけて、それを達成することができて本当に嬉しい。だが、ここへ来てルールが変更されたので、いまとなっては必要なくなってしまった。なぜならもう、純粋なレースのようなスピードでタイヤを交換する必要はないからだ」

「参戦するチームにとっては、少しイージーになったと思う。エンデュランス・カップでは、そのような高度な訓練を受けたピットクルーは必要ない。WRTが彼らのような(タイヤ交換に長けた)スタッフを維持することに熱心だったのは、そういったことが理由のひとつだったと私は知っている。彼らには、非常によく訓練されたピットクルーが、複数のマシンにいるからね」

「そのようにしなくて済むことは、我々参戦チームすべてにとって、コストの削減になる。だが、スプリント・カップに参戦しているのであれば、とにかくトレーニングをしなければならない。そして、すべての装備を持っている必要もある」

 ピットストップが競争の要素を失うことの見通しについて尋ねられたラテルは、次のように述べている。

「我々(シリーズ)は、チームとともに運営しているようなものだ」

「現在、我々はコスト削減プログラムに取り組んでいる」

「これ(タイヤ交換規定の変更)はチームが『イエス』と言ったポイントのひとつであり、間違いなく予算をカットしてくれるものだ。それは圧倒的多数(の意見)だった」

2020年のGTWCヨーロッパ/エンデュランス・カップ、イモラ戦の様子

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