21年度長崎県予算案から<4・完> 教育 新たなキャリア教育に光

福江中の取り組みが紹介された定例教育委員会=県庁

 若者の長崎県外流出に歯止めがかからない中、県教委は2019年度から“起業体験”を通して中学生の課題解決能力を養う新たなキャリア教育に取り組んでいる。新年度当初予算案では「ふるさとの新たな魅力を創出するキャリア教育実践事業」として約500万円を計上。予算規模こそ少ないが、教育分野での人口減少対策の一環として「県内全ての中学校に広げたい」と青写真を描く。
 「生徒たちが会社を立ち上げて地域を活性化している。実体験で社会の仕組みを学ぶことは非常に大切なことだ」
 18日の定例教育委員会。五島市立福江中の取り組みが動画で紹介されると、教育委員たちから活動を高く評価する声が相次いだ。県教委によると、20年度までに新たなキャリア教育に取り組んだのは県内8地区8校。生徒たちが地元で出資を募って模擬会社を設立したり、地元産品を商品化したりして販売するなど地域活性化にも一役買っている。
 県教委が集計中のアンケートでは「地元への愛着が湧いた」といった回答が数多く寄せられており、「生徒たちが探求的な学びを展開しながら学力を高めていく大きな可能性を秘めている」と担当者は手応えを口にする。こうした成果を受け、新年度からは指定校を県内9地区に拡大。学校と市町が連携して地域課題の解決を図る学習プランを作成し、事業を推進する協議会も9地区に設置する。
 ただ、地域の課題を教材化するには、地域の人々の理解と協力が不可欠となる。既に特色のある教育に取り組んでいる市町もあり、この事業がどこまで広がりを見せるかは未知数。認知度向上のための情報発信が課題となっている。
 県教委は、子どもたちに必要な「ふるさとを担う実践力」として▽ふるさとを愛し、誇りに思う心情▽起業家精神▽起業家的資質・能力-の育成を掲げる。教育のICT(情報通信技術)化など時代の急速な変化に対応する一方で、こうした息の長い取り組みも今以上に必要なのかもしれない。


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