丸木戸マキ(漫画家)- 「ポルノグラファー プレイバック」綺麗に映画化してくださったなと感じています

続編を描くつもりはなかったんです

――『續・ポルノグラファー プレイバック(以下、プレイバック)』は前2作がドラマ化されてからの執筆になりますが、元々構想があり連載を予定していたものがドラマも好評だったので映画にという形なのでしょうか。

丸木戸:

正直に言うと私は続編を描くつもりはなかったんです。ドラマ制作中にプロデューサーの方から「3作目を作りたい。原作があったら作れるので描いて欲しい。」というお話しをいただいて、編集部の方からも是非やりたいなと言っていただけたので形になりました。

――現場やファンからの後押しがあって描かれることになったんですね。

丸木戸:

私の中では『プレイバック』を描くことはハードルが高かったんです。あれからさらにどういうドラマを作れるんだろう、やれることはやってしまってるんじゃないか、そういう躊躇いがありました。ただ、こうやってお話しをいただけることはとてもありがたいことなので、チャレンジしたいなと思いお引き受けしました。

――「続編を描いてほしい」とお話しが来たときの率直なお気持ちを伺えますか。

丸木戸:

私の中にはこの人物たちがその後どういう暮らしを送っているかはなんとなくイメージがあるわけですが、それは私がアウトプットしないと誰も解らないんだなという事に改めて気付かされました。『ポルノグラファー』を描いた後の感想で「この二人はこの先、上手くいくんだろうか」や「これってハッピーエンドなの」みたいな感想をおっしゃる方がいらっしゃって、それを聞いてそういう風に捉えられる方も確かにいるよなと思いました。

――想像の余地を残した終わり方で、その続きは読者それぞれ考えて下さいという作品もありますからね。

丸木戸:

もちろんそういう作品もいいんですけど、続編を出すとなった時に作者から道筋を出すという意義があるんだと思いました。描きたいことを描くというのもやりたい事の1つではあるんですけど、漫画家は性質として職人みたいなところもあるじゃないですか。今回は人からの要求にどこまでこたえられるのかという事にチャレンジしてみたかったということもあります。しかも『プレイバック』は、状況が結構固められていたので(笑)。

――確かに今作はそうですね(笑)。

丸木戸:

連載は時間がかかるものなので、悩みはしたんですけど。私は頼まれたものを描くという経験を今までしたことがなかったので、新鮮でした。

――今作の設定・物語は、『プレイバック』という形ではなくても描いてみたいという思いはあったのでしょうか。

丸木戸:

元々考えていたものがあったわけではなく、この人物たちがこういう状況に陥ったらこういう行動をするだろうな、みたいな発想で物語を考えていきました。

――『プレイバック』では『アケミちゃん』から明実親子も出て来てますが。

丸木戸:

『プレイバック』の第1話を考える時にもしかしたら映像化するかもしれないという事もあったので、新しい登場人物が欲しいなと思ったんです。私も新しい役者さんを見たかったですし、どういう人たちがいいんだろうと考えたときに、『アケミちゃん』のキャラクターたち・世界観が『ポルノグラファー』の世界観に合うと思ったんです。『プレイバック』第1話の組み立てには凄く苦労したので、思いついたときはこれしかないという心境でした。

文字通り一肌脱いでくださった

――役者のみなさんや三木(康一郎)監督とも長い付き合いになっていらっしゃると思いますが、今回映画化されるという事で、みなさんから丸木戸先生に『プレイバック』について質問されたことや逆に丸木戸先生からお願いしたことはありましたか。

丸木戸:

ほとんどなかったです。もちろん、脚本・シナリオも見せていただきましたが3作品の中で今回が一番何も言わなかったです。ドラマシリーズ2作も細かく何かを言ったという事でないんですけど今回の映画は3作目ですし、シリーズならではの独特の雰囲気がすでに出来上がっています。ドラマから入られたファンの方もいらっしゃると思うので、お任せした方が嬉しいんじゃないかなと思いました。そんな中で唯一言ったところがあって、それは木島(理生)が城戸(士郎)と東京駅の近くの喫茶店で待ち合わせてというシーンです。二人が別れるときにシナリオ上ではバックハグをすると書かれていたんです。

――あのシーンは城戸が「俺たち、続かなかったよね」と確認して自分から終わらせるシーンですから、そこまで激情的にならないですよね。

丸木戸:

そうなんです。撮影も一応したらしいんですけど、三木監督もやっぱり要らないなとなってカットしたらしいです。それを伺って「やっぱり要らなかったよね」と思いました(笑)。実際に出来上がった映像はあの二人らしいクールで何か1枚隔てたようで、でも後ろでくすぶっているような感じが出ていてすごく良かったです。

――そこはドラマから携わられているだけあって、無理に押し通すのではなく原作のもつ空気感を拾い上げていただけたんですね。

丸木戸:

そうだと思います。

――木島理生役の竹財(輝之助)さん・久住春彦役の猪塚(健太)さん、お二人の演技も素晴らしかったです。

丸木戸:

凄かったですね。私の想像を超えるくらい頑張ってくださって、濡れ場なんかもココまでやってくれるのかと思いました。男の人だから余計に力が入っちゃうというのもあるのかなとも思ってしまいました。実は私、濡れ場に対して少し抵抗感もあったんです。

――そうなんですか。

丸木戸:

すみません。自分でも変なのかなとも思ったりすることもあるんですけど。

――いえ、全然。漫画と実写では生々しさも変わってきますから。

丸木戸:

読者の方が読みたい部分でもあると思いますし、自分でも必要だと思って入れている部分ではあるんですけど、映像として描く濡れ場でなかなかあそこまでいく作品はないじゃないですか。

――BLに限らず大人向けの恋愛作品でもあそこまで描くものはそれほど多くはないですね。

丸木戸:

そうなんです。なのでそこに最初はびっくりしたんですけど、お二人は文字通り一肌脱いでくださったので、「お疲れ様」と「ありがとう」しか言えないですね。

――男の私から見てもエロいなと思いました。

丸木戸:

三木監督もエロいの好きだと思うので追求したのかもしれないですね。

――感情を爆発させて喧嘩をした二人の気持ちが通じ合ったあと、ああいう濡れ場があることで視覚的にも二人の気持ちが結ばれたんだなと解るので物語のバランスとしても良かったのかなと思っています。

丸木戸:

私も特に最後のシーンなんかは必要だったんじゃないかなと思いますね。『ポルノグラファー』では付き合う前の二人という事もあってちゃんと絡んでいるというシーンはあまりなくて、だから劇場版では「やってやるぜ」という意気込みを感じました。

――この映画が三部作の完結編というのも大きいですよね。

丸木戸:

そうですね。

凄く愛らしいなとも思うんです

――これは映画というよりもこの『ポルノグラファー』シリーズそのものについてなんですけど、木島は手紙も小説も手書きで書いているじゃないですか。二人の関係も事故からの口述筆記で始まっているというのも特徴的な部分です。だから、木島がアナログ人間なのかと思っていたらスマホも持っている。

丸木戸:

(笑)。

――作中のセリフでも「手書きが疲れたらPCでもいいよ」というものありましたが、手で文字を書くという表現方法をとられたのは何故なんでしょうか。

丸木戸:

確かにPCで打てばいいという方法もありましたね。

――そこは無意識だったのですか。今は手書きのものを渡すというのが昔に比べると特別な行為になっていると思うので、口述筆記などは特殊性癖だなと思ったんです。

丸木戸:

『ポルノグラファー』の第1話を描いたときは、時代を80年代くらいにしようかなとも思っていたんです。

――確かにその頃であれば手書きも違和感はないですね。

丸木戸:

なぜ昔の設定にしようと思ったのか思い返すと、絵にしたときに情緒がないのでやっぱり手で書かせたかったからじゃないですかね。作中に「君の文字が好きなんだ」というセリフがあるんです。字にはやっぱり癖が出てしいますから、そういうところは取り入れたかった部分ではありましたね。

――作品を書く、手紙を書くというのは、ただ文字を書く事から更に感情を乗せて書く行為になりますからね。

丸木戸:

そうですね。

――この二人はかなりめんどうな性格じゃないですか。原作者という立ち位置から離れて見た際この二人どのように感じられますか。

丸木戸:

四六時中、付き合わなければならないとなると大変だと思いますけど、人としては嫌いじゃないです。長文で自分の日記みたいなメールを送り付けてくるような人いるじゃないですか。木島はそういうタイプかなと思っていて。これをどう返信したらいいのと思う反面、凄く愛らしいなとも思うんです。木島はあそこまで心開いてくれたら、だいぶ付き合いやすくなると思います。大人ってどうしてもカッコつけちゃうじゃないですか、あそこまで心を開くことはなかなかできないので羨ましいですね。

――わかる気がします。セリフに関して言うと、「幸せな人間に文学はいらない」というものも印象的でした。

丸木戸:

ちょっとカッコつけすぎてますけどね(笑)。大学時代の先生で実際に言っていた人が居て、その言葉だけ覚えていてそれを使わせてもらいました。

――私は『ポルノグラファー』シリーズの中では蒲生田(郁夫)先生が一番好きなキャラクターなので、好きなシーンの1つです。

丸木戸:

嬉しいです。昔はああいうタイプの人は結構いたのかもしれないなと思いながら描きました。映画でも素晴らしかったですよね、私も気に入っている点の1つです。

感性の違いを感じるのも面白かったです

――そこも含めて映像化の正解、お手本のような作品だなと感じました。

丸木戸:

そういっていただけるのは嬉しいですね。

――それだけ作品の理解が高い方が作られているんだなと感じました。

丸木戸:

私から観ると三木監督の作品だなと思う部分もありました。演出面でビックリすることもあって、そういう感性の違いを感じるのも面白かったです。

――そうなんですね。改めて映画を観ての感想を伺えますか。

丸木戸:

本当に漫画を綺麗に映画化してくださったなと感じています。映画ではストレートに二人が思いをぶつけあうシーンが漫画より強く表現されているのが印象的です。劇場版は特に最後の物語の締め方が良かったなと思っています。読み切りで書いた蒲生田先生と対話するシーンを木島と久住の二人が思いを確かめ合った後にちょっとピリッとした感じで持ってきているのが、甘すぎず、辛すぎず、好きですね。

――大人な作品になっていましたよね。

丸木戸:

思いがけず始まった映像化の企画がまさかの3作目。自分の中では今も本当に現実なのかなと思っている部分もあります。本当に沢山の方が真剣に向き合って作って下さった作品で、私にとっても大切な思い出です。皆さんにも隅から隅まで味わっていただきたいなと思っています。特に『プレイバック』は原作の段階から映像化というのを念頭に置きながら描いた作品でもあるので、ぜひ見届けて欲しいです。

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