西郷隆盛の座右の銘「敬天愛人」の英訳 「天」は「天国」? せごどんの思いは…

西郷隆盛銅像前の観光案内板。敬天愛人の英訳は「REVERE HEAVEN LOVE MAN」=鹿児島市城山町

 鹿児島市の西郷隆盛銅像前にある観光案内板で「敬天愛人」の英訳が「Revere Heaven Love Man(リビア・ヘブン・ラブ・マン)」となっていることに、「違和感がある」との声が南日本新聞社の「こちら373」に寄せられた。「『天』をヘブン(天国)と訳して、西郷の思いが伝わるのか」という指摘だ。

 「敬天愛人」は西郷の座右の銘。「道は天地自然のものにして、人はこれを行うものなれば、天を敬するを目的とす。天は人も我も同一に愛し給う故、我を愛する心を以て人を愛する也」(南洲翁遺訓)が、その意味とされる。

■キリスト教影響?
 西郷南洲顕彰館(同市)の英訳は「Revere Heaven Love People(ピープル)」。そのほかの出版物も多くがヘブンと訳している。日本文化を英文で紹介した新渡戸稲造の「武士道」(1900年)も敬天愛人を引用。新渡戸記念館(青森県十和田市)によると、「天」はヘブンをあてた。「Revere」は「崇拝する」「あがめる」などの意味がある。

 「天国は西洋のキリスト教的な概念。儒学を学んだ西郷の『天』とは違う」と話すのは、西郷の考えを研究する南洲哲学研究会の山城洋一代表。「大自然の摂理や宇宙の真理と考えたい。それに沿った英訳がしっくりくる」と提案する。

 一方で、キリスト教の影響を指摘する声もある。「敬天愛人」を初めて紹介したのは明治期の思想家中村正直とされる。中村は英国に留学し、キリスト教精神の漢語訳として使った。西郷は中村の著書や聖書を読んでいたという。新渡戸もクリスチャンだ。

 志學館大学の原口泉教授は「人を愛するの部分も含め、隣人愛を説くキリスト教の教えに通じる」と認める。しかし、「西郷の根幹は儒学の教え。天は西洋的な天国ではなく、あくまでも東洋的な概念と考えるのが普通だろう」と話す。

 儒学は中国で為政者の学問として発展し、日本など東洋全体に影響した。「天」にはさまざまなとらえ方があり、「天命」「天帝」などの使い方がある。西洋的な「God(ゴッド)」とは違う。

■儒教の「天」
 英国出身で、儒学や日本の歴史を学ぶ島津興業海外営業部長のアレックス・ブラッドショーさんは「ヘブンはキリスト教に限らず、東洋的、儒教的な『天』の意味を含む。語源にも空や宇宙の意味がある」と解説する。

 ブラッドショーさんによると、初めて儒教が英語で紹介された19世紀に「天」の訳としてヘブンが使われた。「儒教と西洋の歴史を考えればヘブンでおかしくはない。しかし、四字熟語の英訳も、単語の持つさまざまな意味の解釈もとても難しい」という。

 ちなみに「Man」は女性も含めた人間や人類という意味。最近は「People」「Mankind(マンカインド)」を使う。ブラッドショーさんは「古い使い方だが、西郷が生きた時代なら『Man』でもいい。ニュアンスとしては『each other(イーチ・アザー)』という感じだろうか」と話す。

 原口教授は「さまざまな思想を受け入れる寛容の人。西郷を思い、慕う人それぞれの英訳があっていい。きっと西郷は許してくれる」と話す。

 みなさんは、どんな英訳がいいと思われますか?


 「こちら373・あなたの声から」(こちミナ)に、あなたの思う「敬天愛人」の英訳をお寄せください。そのほか、みなさんからの情報や疑問も待っています。

「敬天愛人」西郷南洲翁遺訓の英訳(西郷南洲顕彰館)

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