西川美和 映画監督は”指揮者” 「演奏者がよければ映画はできる」 尾崎世界観との対談で

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役所広司主演の映画「すばらしき世界」の監督・脚本を務めた西川美和と、ロックバンド「クリープハイプのボーカルで小説家でもある尾崎世界観の対談が、11日に都内で行われた。「すばらしき世界」の劇場公開と、尾崎世界観が小説「母影」が第164回芥川賞候補となったことを記念して実施された。対談では、それぞれ映画と音楽という軸を持ちながらも作家としても活躍する西川と尾崎が、創作への道筋などについて語り合った。

西川が監督した「すばらしき世界」は、直木賞作家・佐木隆三によるノンフィクション小説「身分帳」の舞台を現代に置き換えて、13年ぶりに刑務所から出所した人生のほとんどを刑務所で過ごした実在の男をモデルに、社会と人間の今をえぐった作品。尾崎が上梓した「母影」は、小学校の女の子の視点から見た世界を描いた作品。少女の眼のうごきや耳で捉えたものを丁寧に描くことによって、友達のいない学校生活や、母親の働くマッサージ店で過ごす放課後の時間に立ち上がる”変”をあぶりだしていく。

「すばらしき世界」は、今までオリジナル脚本で作品を発表してきた西川にとって、初の”原作もの“となった。そのことについて西川は、「すごく安心感がありますね。この作品を元に脚本を書くにあたって、ある意味大船に乗ったような、自分が書いた以上に頼れる大樹があるという気持ちになりました。でも小説を2時間の映画にするのは大変な作業で…。小説は内的な葛藤が描けるのが魅力的ですよね。映画はまた違うから。そうは言っても小説が自由だなと感じるのは、たまに書くから思うことなのかもしれません(笑)」と振り返った。

一方の尾崎は小説を書くきっかけについて、「音楽をやっていて、体がうまく動かなくなる時期があったんです。そういう時に文章を書いていました。見様見真似でやっていく中で、たまたま編集者の方に声を掛けて頂いたのが小説を書き始めたきっかけです。音楽雑誌でコラムの連載をしていた時は『自分は結構書けるんじゃないか?』とちょっと調子に乗っていたのですが、小説になるとやっぱり厳しかったですね…」と振り返った。また、たえず何かを書いていたという尾崎は、書く行為を通して作詞にも良い影響があったことを明かした。

映画監督という立場について「バンドでいうとボーカルですか?」と水を向けられた西川は、「ボーカルは多分俳優だと思います、バンドではないけどコンダクターなのかな?オーケストラで例えれば。指揮者が代わっても演奏者がよければ基本的には映画はできます」と持論を語った。編集作業について話が及ぶと、「作業工程によって脳みそを使う部分が全然違うんです。脚本を書いている時と、現場で撮影をしている時と、それをフラットに繋いでいる時。人格が変わっているかも。変えざるを得ないほど異なる作業」と説明した。

対談の終わりには、「母影」について尾崎が「本来の自分の文体ではない表現、自分なりに制限がある中で挑戦した作品」と説明。さらに、「(西川の著書)『スクリーンが待っている』は”映画の攻略本″です!ぜひ映画『すばらしき世界』と本のセットで読んでみてください」とアピールした。

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