『あのこは貴族』箱入り娘と自力で生きるキャリア女性の対照

(C)山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会

 『グッド・ストライプス』で新藤兼人賞を受賞した岨手由貴子の長編2作目だ。前作はオリジナル脚本で男女の身の回りの日常性を丁寧にすくい取っていたが、今回は山内マリコの原作を得て大きな飛躍を見せる。東京を舞台に、上流家庭で生まれ育った箱入り娘と地方から上京して自力で生きるキャリア女性の人生が交差する。対照的なヒロイン像を通して女性の生き方を問い掛ける女性映画だ。

 飛躍というのは、二人の移動手段をタクシーvs.自転車で対比させて映画的な高揚感を演出したり、あえて夜のシーンを多用してスマホの画面の光を利用したライティングや雨の降らせ方だったり…映画作家らしさのことだ。世界観も広がった。ジェンダー問題を時に辛辣に時にユーモアを交えてじわじわと浸透させる語り口が見事で、特に親友を介して二人が初対面するシーンが素晴らしい。まさに「シスターフッド映画」の面目躍如といえる男に有無を言わせぬ痛快シーンだ。それでいながら、実はラブストーリーとしても見応えがあるのだ。

 とはいえ、岨手監督の持ち味は、やはり日常性にある。例えば、お正月の食卓の格差といった分かりやすい対比だけでなく、普段使う食器への愛着の違いや、相手との関係性を仕草だけで伝える手腕など。彼女は、男女を問わず観る者に共感を覚えさせる天才だ。女性映画の旗手として、これからの日本映画を支えていく一人だろう。★★★★★(外山真也)

監督・脚本:岨手由貴子

原作:山内マリコ

出演:門脇麦、水原希子、高良健吾

2月26日(金)から全国公開

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